呉智英 × 適菜収 【第1回】
「バカが好む民主主義というイデオロギーについて」

『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋

第一章 バカは民主主義が好き

ポピュリズムとは何か?

ポピュリズムと衆愚政治はほぼ意味が同じで、ポピュリズムは煽る側、衆愚政治は煽られる側の問題。能動と受動の関係なのね。気づいていない人が多いけど、衆愚政治やポピュリズムという言葉が普通に使われるようになったのはこの10年ほどの話なんだよ。

それまではテレビや新聞で使うことは憚られるような感覚があった。政治思想史の専門家は普通に使っていても、一般のメディアではあまり使われる言葉ではなかった。それが、この十年使われるようになってきたのは明らかに何かの前兆だよ。

適菜 近代大衆社会の破綻が明らかになってきた。民主主義という制度に疑念が向かうようになってきたということでしょう。

 適菜君がB層C層というキャッチーなキーワードを使って挑発的な議論を展開しても、当たり前のように社会に受け入れられているわけだよね。これが20年、30年前だったら大衆社会批判なんかすれば、すごく変な奴が変なことを言い出したという扱いで、少なくとも大手マスコミからは無視された。

実は「衆愚政治」という言葉は『岩波小辞典 政治』にも単独立項されてない。後ろの索引の副項目には出てくるけれどね。それも、ギリシャ時代の政治現象を説明するため。俺が愛用している平凡社の小百科『マイペディア』にはポピュリズムの項目の説明があるんだけど、これが意外な説明なの。適菜君わかる?

適菜 わかりません。

 「1920年代におきたフランスにおける文学運動」とあるんだ。『広辞苑』で見ると、ポピュリズムという言葉が二ヵ所登場するのが第三版からで、第二版までは一項目しかない。その一項目は平凡社小百科と同じで、「20世紀前半におきたフランスにおける文学運動」という説明しかない。第三版が出た1985年頃になってはじめて、「大衆扇動の政治」という説明がある。

つまり、ポピュリズムは本来、文学運動の言葉で、意味も内容も全然違うことだったんだよ。それが今では当たり前のように衆愚政治の意味で使われている。だから、21世紀に入って大衆社会の病理が極限まで来ていることが直感的に理解されはじめた。われわれが当たり前のものとして信じてきた近代的政治思想に、疑いの目が向かうようになったということだね。

【ポピュリズム】
大衆迎合主義。大衆に利益を約束し、支持を得ようとする政治的態度。有権者が目先の利益に飛びつき、理性的判断を欠く衆愚政治につながると批判される。

【B層】
2005年、小泉内閣の郵政民営化政策を進めるため、自民党が広告会社に作らせた企画書に登場する概念。主に主婦層、若年層、シルバー層とされ、「具体的なことは分からないが、小泉純一郎を支持する層」「IQが比較的低い」と定義された。

【C層】
構造改革に否定的な「IQが比較的高い」層。