[野球]
上田哲之「吉田(東海大相模)のスライダー、和田(カブス)のストレート」

スポーツコミュニケーションズ

ダルビッシュ、米国野球への提言

 ここで野球文化について一言しておくと、やはり最近のダルビッシュ有(テキサス・レンジャーズ)の発言が素晴らしい。7月15日(日本時間)、オールスター前のインタビューで、「(先発投手の)中4日は絶対に短い」と言ってのけたのだ。ご存知の通り、メジャーでは先発投手は「中4日、1試合100球」が常識である。このアメリカ文化に真っ向から異を唱えたのだから、立派である。

「球数はほとんど関係ない。120球、140球投げさせてもらっても、中6日あれば靭帯の炎症もクリーンに取れます」(7月16日付「日刊スポーツ」)
「(ヒジに負担がかかるのは)むしろチェンジアップ。フォークは別ですが、スプリットぐらい(握りが)浅ければツーシームと変わらない」(同)
 後段のコメントは、田中将大(ニューヨーク・ヤンキース)が右ヒジ靭帯を傷めたのは、スプリットの投げ過ぎが原因、とする論評への反論だろう。

 面白いのは、21日の「ニューヨーク・タイムズ」電子版によると、かつて広島で活躍したコルビー・ルイス(レンジャーズ)が「僕は(日本流の)週1回の先発が好きだった。常に健康な状態で投げられた」と言い、元ロッテ監督のボビー・バレンタインも賛意を示している、とのこと。だけど、ルイスはカープ時代、ありがたいことに一人だけ、結構中4日、5日で回ってくれていなかったかなぁ。バレンタインに至っては、アメリカ思想の信奉者という印象が強いのだけど……。ともあれ、日本ではトミー・ジョン手術を受ける投手は10年で3、4人なのに、アメリカは1年に何十人もいる、というダルビッシュの論拠には説得力がある。ちなみに、ルイスもアメリカ球界に復帰したあと、この手術を受けることになった一人である。

 松坂大輔(ニューヨーク・メッツ)も和田も藤川球児(カブス)も、メジャーに移籍して、結局、トミー・ジョン手術を受けた。私など、来季、メジャーに挑戦すると言われている前田健太(広島)を、今から心配している。どちらかといえば細身。体型的には、たとえば黒田博樹(ヤンキース)やダルビッシュよりは、和田、藤川に近いタイプでしょ。フォークは投げないけれど、チェンジアップは投げる。

 もうひとつ言えることがある。29日の和田の初勝利を見ていると、ストレート、スライダー、チェンジアップという投球スタイルは、日本時代と特に変わっていなかった(少し球速は上がっていたが)。それでも高目のストレートで空振りを奪えたし、低目のストレートで抑えることができた。ということは、おそらく前田もメジャーに行けば、ほぼ通用するはずなのである。それだけに、ヒジが怖い。

 東海大相模の吉田がスライダーを武器にするのは、おそらく同県の先輩・松井裕の影響があるだろう。ひいては、県予選決勝での彼の成功が、これから全国の高校球児に影響を及ぼすに違いない。こうして、日本の野球文化は醸成され、更新されていく。メジャーの文化も同様である。例えば、グレッグ・マダックスという大投手がいて、フロント・ドアやバック・ドアという投球思想は文化として確固たる地位を築いた。これを取り入れたのは、有名選手ではたとえば黒田だが、それだけではない。今年の高校野球の予選でも、おそらくは、意識的にバックドアを放って三振を取る投手を何人か見た。

 日本野球とメジャーリーグは、否応なくお互いの文化をぶつけ合う。もはやそういう時代である。その時代にあって、例えば吉田は、どのように成長していくのだろうか。彼は和田のストレートを見るだろうか。そして影響を受けるだろうか。ダルビッシュの言動は、日米に新時代を切り拓くだろうか。

上田哲之(うえだてつゆき)
1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。