長谷川幸洋×宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)VOL.1―民族主義の台頭によって世界のバランスが崩れはじめた

『現代ビジネスブレイブ イノベーションマガジン』---「長谷川幸洋がキーマンに聞く」より

クリミア問題は暴力的なナショナリズムの幕開け

長谷川: 今年の世界情勢をみるとロシアではクリミア問題があって、一方で中国も南シナ海の南沙諸島でいろいろ乱暴なことをしているわけです。私の理解ではこれはロシアと中国の双方が互いに刺激し合いながらやっていることで、それを概念的に言えば、力を背景にした現状変更ということになるでしょう。

こうした試みは、1995年にアメリカがフィリピンとの合同軍事演習を最後にフィリピンから手を引いた間隙を縫って、中国がミスチーフ礁の実効支配に乗り出した辺りから始まったのではないか、と私は見ています。まず、このロシアと中国の振る舞いをどのように見たらよいか、という点からうかがいたいと思います。

宮家: 私はいつも世界情勢については、戦略的な部分と戦術的な部分に分けて話をしているんです。ロシアと中国で戦略レベルで何が起きているかというと、大きな流れで言えば、冷戦時代に封印された各国の醜く不健全な暴力的ナショナリズム、これがまた復活してきているということですね。クリミア問題は、その始まりだと思います。

ロシアの場合は民主化に失敗して民族主義に傾斜していった。中国の場合は1990年代に天安門事件の結果、民主化しないまま民族主義化していった。長い目で見ると、1945年以降の冷戦構造、さらにもっと大きな枠組みで言えば、ロシア革命以降の共産主義対自由民主主義というインターナショナリズム同士の戦いが遂に終焉し冷戦時代が終わることによって、各地の醜い民族主義の封印が解けたわけです。

そしてポスト冷戦の時代には、民族主義の復活を押しとどめるために、たとえばヨーロッパでは「ロシアという大きな熊をどうやって檻に入れておくか」ということでNATOを拡大してみたりEUを拡大してみたりしたわけですね。

クリミアやウクライナについて言えば、「ブダペスト覚書」という枠組みを作って「クリミア半島の領有を承認する代わりにウクライナは核拡散防止条約(NPT)に入って非核化する。そうすればロシアはウクライナに対する領土的野心を持たない、武力行使をしない」という約束をしたんですね。これが1994年12月5日のことでした。

そういういろいろな仕掛けをして、ロシアの民族主義の復活を押しとどめる、もしくは延期せせる努力をしたんですが、そのすべての努力が失敗した結果がクリミア問題です。

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