企画にあたって、まずは、競技を選ぶところからスタートしました。私たちが選んだのはゴールボールとシッティングバレーでした。この2つはパラリンピック競技です。もし、体験してみて競技に興味が湧いた時、その先に世界の舞台があるということは、その競技を本格的に始めるときの夢の大きさが違うからです。企画段階から、それぞれの競技の日本代表チームの監督に監修にもついていただきました。そして、初めてでも簡単にできて楽しんでもらえるように用意したのが、「やってみよう」というコンテンツ。これは、競技をモチーフにした簡単なゲームです。
そんな中、私たちは途中で、教材づくりに没頭するあまり、いつのまにか「競技ができるようになるメソッド」を半分強制的に与えようとしてしまっていたようだということに気が付きました。本来、私たちがやりたいことは、「スポーツを好きになってもらうこと、できるようになってもらうこと」ではなく、「こんなスポーツもあるんだよ。目が見えなくても、歩くことができなくても、こんなにたくさんのことができるんだよ、みんなでやると楽しいんだよ、ということを体験することで知ってもらうこと」にあります。そしてその先は、子どもたちに任せればいいのです。
それに気がついて以降、競技への道筋にこだわらず、視覚からの情報がなくても、座ったままでも、どれだけ楽しいことができるか、を追求していきました。実はこのことに気づかせてくれたのは、子どもたちだったのです。あるスポーツ教室の先生と子どもたちに、出来上がったばかりの「みんなのスポーツ」を使って、実際にやってもらうという体験会を行なった時のこと。当初、私たちの頭には「この指導者マニュアルの説明で、果たして先生は使いやすいだろうか」「小学生は、こんな動きができるだろうか」といったことを検証しようと考えていました。つまり、教材としての質がどうなのかを評価しようとしていたのです。
ところが、実際にやってもらうと、子どもたちが目の前で成長していく姿が見られたのです。これは正直、予想していないことでした。例えば、ゴールボールの遊び方のひとつとして、目隠しをした数人で、ボールをパスしていくゲームを行なった時のこと。何度か繰り返しやっていくうちに、ある子は隣の子に自分の居場所がわかりやすいように声を出して知らせていたり、「こうしたらうまくやれるよ」とできるようになった子が、他の子を教えていたり……。誰に言われるでもなく、自然と仲間を思いやり、工夫してできるようになっていく姿を、見せてくれたのです。これにはスポーツ教室の先生も感激していました。私自身、いつもより不便なことがあっても、その分工夫をしたり、お互いに思いやったりすることで、前に進もうとする子どもたちの無限の力を魅せられた気がしました。
障がい者スポーツのことを知ってもらったり、障がいの有無を超えて友達をつくってもらうきっかけにしてもらったり、と願ってつくった「みんなのスポーツ」。しかし、実際はそれだけにとどまらず、私たちが予期しなかった効果を発揮してくれるのかもしれません。今後、さらに競技を増やし、体験会の経験を経て改良を加えていく予定ですが、ひとまず完成させることができた今、私たちの手の届かなかった全国各地で、親子や先生の笑顔が溢れているかも、と想像すると、とても嬉しくなります。