スーパースターだけでは野球はできない。チャンスに滅法強いバッターや、任された1回に魂を込めるリリーフピッチャー。一筋縄ではいかない曲者たちが活躍するからこそプロ野球は奥が深い。
4番・バレンティンを敬遠気味の四球で歩かせ、5番・雄平と勝負—。今季、ヤクルト戦でこの作戦を取った相手チームが、何度も痛い目に遭っている。
5月16日の中日戦もそうだった。
「初球、しかも変化球ですよ。雄平に完全に狙い打たれ、ライト前にダメ押しタイムリー。ここぞという場面で完全な決め打ちができる、賭けができる。だから雄平は曲者なんです」(中日のあるコーチ)
絶対的なエースや4番打者ではない。だがそのプレーが、存在が、相手チームに誰よりも嫌がられる選手がいる。メジャーにはいないそうした「曲者」の渋い活躍こそが、日本のプロ野球の醍醐味とも言える。
'02年にドラフト1巡目でヤクルトへ入団した雄平(29歳)もその一人。
打率・297、本塁打10本(6月4日現在・以下同)と、今シーズン飛躍を遂げた雄平。だが彼がこれまで歩んできた道のりは、平坦ではない。
本名は高井雄平。東北高校のエースとして鳴り物入りで入団したものの、投手としての芽は出なかった。150kmを超えるストレートが持ち味だったが、制球が定まらず四球を連発。「期待はずれ」と揶揄される日々が続く。
ヤクルト首脳陣は、非凡だった打撃に目をつけ、打者転向を要請した。'03年~'10年までヤクルトの二軍コーチと監督を務めた猿渡寛茂が言う。
「キャッチボールもままならないほど、コントロールはひどかった。そこで'09年の秋季キャンプのときに『ピッチャー兼任だから』と説得して、野手として試合に出しました」
エースだったプライドが邪魔をし、なかなか野手転向を受けいれられなかった雄平。投手への未練をふっ切るきっかけとなったのは、あるコーチとの出会いだった。
「真中満コーチですよ。雄平と真中は似てた。だから雄平は素直になれた」(猿渡)
同じ左打者。そして何より、「体型」が似ていた。真中も雄平も、小太りで胴長—。他競技のアスリートではありえない、プロ野球にだけ存在が許される、あの体型である。