安全はこうして数字に変えられた!『基準値のからくり』

村上道夫・永井孝志・小野恭子・岸本充生=著

本書の構成と読み方

 本書では、私たちに身近なさまざまな基準値の根拠をなるべくわかりやすく、3部構成で説明した。それとともに、この社会がどのくらいのレベルのリスクを「受け入れられないリスク」と見なしてきたかについても考えてみた。

 なお、基準値を決めるのは、関連の省庁であることが多い。その際にはよく、専門家を集めた検討会が開かれる。ただし基準値のもとになる数字は、国際機関で決められたものを導入する場合も多い。そのほか、事業者などが自主的に定めた基準値もある。本書でおもに扱っているのは、省庁で決められた基準値である。

 第1部(1~5章)は、身近な基準値の代表選手ともいえる飲食物に関する基準値である。ふだん、なにげなく口にしている飲食物のリスクが意外と高い(しかもそれを避けようがない!)ことを知って、ショックを受ける人もいるかもしれない。

 第2部(6~8章)は、環境にまつわる基準値である。大気汚染、原発事故における避難と除染、生態系保全においては、基準値を厳しくすればよいとも限らないし、現実的に厳しくできないというジレンマもある。そのもどかしさや、それでも基準値を設定しなければならない当事者の苦悩を感じとっていただきたい。なかには「達成率0%」という驚くべき基準値もある。

 第3部(9~10章)は、事故に関する基準値だが、まずは携帯電話を電車の優先席付近で使用してはいけないというルールのもとになった基準値から紹介する。さらに危険物の保安距離に関する基準値、どうしてもリスクをゼロにできない状況で設定された交通安全に関する基準値のあと、高速バスの走行距離について、過半数のドライバーが自信がないと答える基準値(!)が登場する。筆者たちがそうであったように、その算定プロセスを知った読者の多くは驚愕するのではないだろうか。

 また、各章の間には、そのほかの基準値にまつわる興味深い話題をコラムとして挿入した。

 これらは順番通りに読んでいただかなくても構わない。どの章やコラムからも、基準値誕生のプロセスには驚きや意外性があふれていることがわかると思う。

 本書は文系理系を問わず、幅広い人たちに読んでいただくために、できるだけ数式や専門用語は使わず、簡易に記した。ところどころ基準値算定に用いられた数式も掲げているが、読み飛ばしても内容の理解に支障はない。

 毎日、家族のための食事を用意している人、酒の席などでうんちくを披露したい人、リスク管理を考える企業の管理職の人など、さまざまな人の興味にかなう内容になっていると自負している。みなさんにはぜひ、自分が基準値を決める立場にいたらどのように決めるだろうか、と考えながら読んでいただきたい。そして、教科書に出てくるような科学のみを学んだ人や、とくに理学を専攻した専門家の方々には、理系的知識のみならず文系的素養も必要とする新しいタイプの科学があることを知っていただきたい。

 本書の4人の著者も、2人が工学、1人が理学、1人が経済学を専攻しているが、基準値への好奇心や問題意識に理系と文系の違いはなく、それぞれが基準値についての知識を熱く披露しあったことが、本書が生まれるきっかけとなった。

 われわれ4人は、危険をあおるつもりも、過度に安全を強調するつもりもない。心がけたのは、基準値のありのままの姿をできるだけ正確に紹介することである。基準値の根拠を知ることは、この世界の意思決定のしくみを知ることである。そして、この世界を生きていくうえで避けることができないさまざまなリスクの、およその大きさを知ることである。リスクの大きさを知らなくても生きてはいけるけれど、知らないまま不安になるよりは、知っているほうがずっと気分がいいはずだ。

著者  村上道夫(むらかみ・みちお) 
東京大学生産技術研究所特任講師。一九七八年東京生まれ。二〇〇六年東京大学大学院修了。博士(工学)。専門は水環境工学・環境リスク学。著書に『水の日本地図―水が映す人と自然』(朝日新聞出版・共著)。


著者  永井孝志(ながい・たかし) 
独立行政法人農業環境技術研究所主任研究員。一九七六年北海道生まれ。二〇〇六年筑波大学大学院生命環境科学研究科修了。博士(理学)。専門は化学物質の生態毒性評価・環境リスク評価。


著者  小野恭子(おの・きょうこ) 
独立行政法人産業技術総合研究所主任研究員。一九七三年新潟県生まれ。二〇〇一年東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。化学物質などのリスクトレードオフ研究に従事。


著者  岸本充生(きしもと・あつお) 
東京大学公共政策大学院及び政策ビジョン研究センター特任教授。一九七〇年兵庫県生まれ。一九九八年京都大学大学院経済学研究科修了。博士(経済学)。独立行政法人産業技術総合研究所研究グループ長を経て現職。専門はリスク評価から経済分析まで。
『基準値のからくり』
安全はこうして数字になった

著者:村上道夫・永井孝志・小野恭子・岸本充生

発行年月日:2014/06/20
ページ数:288
シリーズ通巻番号:B1868

定価:本体920円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)