【特別対談】加賀乙彦(作家・精神科医)×堀川惠子(ジャーナリスト)---戦争・死刑・日本人 『宣告』と『教誨師』から読み解くこと

加賀 それが間違いなんです。自衛隊はいま災害の場合は出動しますが、自分たちが殺されるわけではありませんね。しかし、本当の戦争になったら相手にやられるんです。そうなったら自衛隊員のなかには辞める人もでるでしょう、高給にひかれて就職のため入ってる隊員も多いんですから。

中世では軍隊は貴族の私兵で、負けた側の貴族は滅びることになるから、そうならないよう適当に戦っていました。たとえば、十四世紀の百年戦争は長い期間戦ったけれど、死んだ人間の数は少ないんです。それが国家として戦うようになった近代の戦争になってから大勢の人が戦争で死ぬようになった。

残念ながら明治憲法(大日本帝国憲法)のもとで日本がはじめた日清、日露戦争ではたいへんな数の死者がでた。そして、第一次世界大戦、第二次世界大戦では多くの国々がおそるべき死人の山を積みあげました。明治憲法のような時代に戻ってはならないんです。

堀川 死刑の執行についても明治六年の太政官布告がいまだにその根拠になっています。日本国憲法の制定時にGHQが死刑に関する問題を取り上げなかったため、太政官布告は現在も効力を保っている。徹底した議論がされないまま、官僚任せになっています。だから二十一世紀になっても明治という時代が、戦争にしろ死刑にしろ顔を出すんですね。

加賀 死刑というのは国家が国民を殺す戦争と深い関係があるんです。

講談社 読書人「本」2014年7月号より 


半世紀にわたり死刑囚と向きあったある僧侶。誰にも語らなかったその体験と懊悩を、自身の死後世に問うてくれと著者に託した意図とは

許されざる罪を犯し、間近に処刑される運命を背負った死刑囚と対話を重ね、最後は死刑執行の現場にも立ち会う、教誨師。過酷なその仕事を戦後半世紀にわたって続け、死刑制度が持つ矛盾を一身に背負いながら生き切った僧侶の懊悩とは。

一筋縄ではいかない死刑囚たちと本音でぶつかりあい、執行の寸前までその魂の救済に向かおうとする教誨師の姿――。執行の場面では「死刑とは何か」「人を裁くとは何か」「人は人を救えるか」について深く考えさせられる。力作ノンフィクション。

 
加賀乙彦(かが・おとひこ)
1929年生まれ。作家・精神科医。1967年『フランドルの雪』(芸術選奨新人賞)で作家活動をはじめる。主な著書に谷崎潤一郎賞『帰らざる夏』、大佛次郎賞『湿原』、毎日出版文化賞特別賞『雲の都』などがある。
堀川惠子(ほりかわ・けいこ)
1969年生まれ。ジャーナリスト。テレビディレクター。主な著書に『死刑の基準』(講談社ノンフィクション賞)、『裁かれた命』(新潮ドキュメント賞)『永山則夫 封印された鑑定記録』(いける本大賞)などがある

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