【特別対談】加賀乙彦(作家・精神科医)×堀川惠子(ジャーナリスト)---戦争・死刑・日本人 『宣告』と『教誨師』から読み解くこと

加賀 僕はもうあとがないけど(笑)、あなたの年齢ならできますよ。人間がどこまで残酷になれるか。残酷な死刑囚の実態はどうなのか。近頃、誰が執行されたかについては発表するようになりましたが、死刑の実態そのものを政府は全部隠しています。

日本では殺人を犯した人間は殺されて当然だ、それがけじめだという風潮がありますが、これは足利尊氏以来ずっと続いた武家政治のあいだに培われた考え方です。それ以前の平安時代四百年間、死刑はなかったんです。これは驚くべきことです。公家さんはお金を浪費して国民を困らせはしたけれども、死刑はやらなかった。これは天皇家を中心にして、死刑なんて野蛮なことはやめようと考えていたからでしょう。

堀川 確かに、世界的にはあちらこちらで死刑をしている時代にもかかわらずですね。

加賀 また、日本には敵が降参してきた場合には許したという伝統があります。殺さない。ただし、負けた後、自分で腹を切るという作法はあったけれど、それに従わなくともよかった。こんな日本の歴史を、私を訪ねてくる特派員に話してあげるんです。

欠落している国民の生命の尊重

加賀 現在は死刑の問題もあるけど、再軍備に関して、ちょうど戦後がはじまったときに決まったことが全部ひっくり返されそうでしょう。憲法をひっくり返すのなら憲法に書いてある通りに国民投票をやって変えるのであれば僕もわかりますが・・・・・・。

堀川 私は自分の年齢から戦後を語る材料はあまり持ち合わせていません。ただ最近、「戦後レジームからの脱却」という〝スローガン〟でオセロの目を返すようにものごとが変わっていますね。その危機感をきちんと伝えていないマスコミの責任は非常に大きいんですが、私はやはり死刑問題とまったく無関係ではない気がします。

少なくとも私が知る戦後、日本人は自分の半径三メートル以内のことには熱心でしたが、社会をつくっている法律や罰をどういうふうに決めていくか、公の部分に自分たちがどうアクセスするか、権力が何をやっているかを感知したりすることをまったくやってこなかったように感じます。

加賀 国の主人公は国民である。そして、官吏はすべて国民のしもべであると、憲法には書いてあります。聖書からとったんでしょうが、実にいい言葉が入っています。戦後できた憲法にまず感謝しなければならないのは、戦争をしなかったことですね。若い人には想像できないでしょうけど、戦争になったときどんな悲惨な目に遭うかは、実際に兵隊になった人間でないとわからない。いま日本には自衛隊があり、最新の兵器を持っていて、それから世界最強のアメリカの同盟国であるという三つの条件によって、若い人たちは安心しきっているわけです。

堀川 広島出身の私は長く被爆者の取材もしていますが、彼らが共通して誇らしげに言うのは「日本は六十数年もの間、戦争で人を殺さなかった」という言葉です。こんな国は他にはないでしょう。その仕組みがいま、壊されようとしています。しかし、多くの若い人たちは戦争は自衛隊がするものという感覚、他人事なんでしょうね。

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