6月11日、電力小売を2016年に全面自由化する電気事業法改正案が成立した。この動きに関連して、このところ、新聞各紙に「東電:10月から全国で電力販売」「自由化にらみ初の『越境』」「乱戦 電力小売」など、派手な見出しが躍っている。政府が進める電力システム改革をにらんで、電力会社間の激しい競争がすでに始まったというのである。
しかし、本当にそうなのだろうか、と考えてみると、いくつか素朴な疑問にぶつかる。
今国会で成立した電気事業法の改正案では、確かに「消費者向けの電力販売」の自由化が柱となっている。ここで出てくる最初の疑問は、「では、消費者向け以外はどうなのか」ということである。
実は、消費者向け(契約電力50キロワット未満の小口利用者)以外の大口需要家向けの電力販売はとっくの昔に自由化されている。その割合は、電力需要の約6割である。政府が「すでに電力市場の6割は自由化されている」と言うのはそのことである。
自由であるなら、その分野では電力会社同士で激しい競争になっていそうなものだが、現実にはそうではない。特に大手電力会社間の競争はほぼゼロである。中国地方にあるスーパーが中国電力ではなく、九州電力から買っている例があるが、これが全国で唯一の例であった。これは、本当に奇妙な状況だ。
2011年の東日本大震災後、原発依存度が異常に高かった関西電力は、原発が止まって、供給力に不安が生じた。火力発電の燃料費によるコスト増もあって、電力料金も値上げした。今年も、同社によれば、供給はギリギリの綱渡りだという。そういう状況下であれば、電力を大量に使用する事業者などは不安で仕方ないだろう。普通に考えると、そういう事業者向けに、供給力に余裕のある北陸電力や中部電力などが、電力販売の営業攻勢をかけてもよさそうだが、そういうことは起きない。これらの電力会社は、関電に電力を融通するにとどめ、関電の顧客を奪うことはないのである。どう考えてもどこかで談合しているとしか思えない。
この状況が続く限り、消費者向けの小売販売が自由化されても同じことになるのではないか、つまり、大手電力会社が自分の独占地域以外に越境して消費者向けの供給で競争することはないのではないかという素朴な疑問が湧いてくる。消費者が自由に電力会社を選べると言っても、それは、その地域の大手電力と小規模な新規参入したいわゆる新電力との間の選択に過ぎない可能性が高いのである。
他方、関電や中部電が東電管内で発電や小売に参入するという動きが報じられたり、東電も全国で小売を始めるという。これは少なくとも大手電力会社間の競争だから、やはり、今回は今までと違うのかとも思えてくる。
しかし、ここでも疑問が湧いてくる。東電以外の大手電力会社と東電の競争は起きるのに、何故、東電以外の電力会社の間では競争は起きないのだろうか。このままでは、2016年以降も今とたいして状況は変わらないのではないか。
疑問は他にもある。東電は、福島第一原発の事故処理を自分ではできず、国民の税金が投入されている。それなのに、どうして発電所を作ったり、他の地域に出て行く余裕があるのだろうか。
これらの疑問に答えるカギが、「電気事業連合会」と「経済産業省」の微妙な関係である。大手電力会社の集まりである電事連はあらゆる問題について、メンバー間で意見交換を行い、自分たちの利権を守ろうとする団体である。巨大な政治力があるのだが、任意団体だということで、経理内容などは秘密のベールに包まれている。もちろん、そこの会議で何を話しているかも秘密である。
その実態に始めて公に迫ったのが国会事故調査委員会だ。その報告書の510ページ以降を読むと、福島事故以前に電事連が談合して、いかに耐震設計審査指針を骨抜きにしようとしていたかがわかる。さらに、日経新聞によれば、原子力規制委員会が、各電力会社に対して、個別の原発ごとに地震想定を大幅に引き上げる方向での見直しを指示したのに、電力会社は「談合」して、見直しに応じないという態度を続けていたという。九州電力が、この談合を破って最初に見直しに応じたために、規制委から、川内原発(鹿児島県)だけを優先審査するというご褒美をもらったというのだ。つまり、国会事故調が指摘した電事連の談合組織としての機能は今日も続いているということになる。(以下略)
・・・・・・・・・この続きは、『古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン』vol094(2014年6月13日配信)に収録しています。