日本維新の会が分裂することになった。石原慎太郎維新の会共同代表のグループは23人と予想以上の数を集めて、安倍自民党よりもさらに右寄りの新党を作る予定だ。一方の橋下徹共同代表は、37人を確保して、結いの党との合流を進め、さらには民主党などを巻き込んだ野党再編につなげたいとしている。
安倍政権が異例の高支持率を持続できている大きな要因の一つが、他に政権を担う能力のある政党がないという点だ。野党再編で、将来の政権交代を可能にする政党または政党の連合ができれば、自民党による一党独裁的な政治状況を打破できる可能性が出てくる。ただ、残念ながら、そういう本格的な動きになると本気で思っているのは、今のところ当事者たちだけのようだ。
新聞各紙やテレビは結構大きく取り上げたが、これは、石原、橋下両氏の組み合わせなら、ただでさえ、国民の注目を集める上に、両者の喧嘩別れだからなおさらだというので一気に盛り上がった。決して、政治的に大きな動きだととらえているわけではない。ワイドショーの関心もすぐに下火になってしまった。
まじめな議論ではどう見るべきなのか。
大手新聞各社の社説などでは、単なる数合わせだけでなく、大きな政策の旗印を掲げた再編を期待するという趣旨の解説が書かれているが、具体的な政策課題とその方向性を論じたものはない。
では、橋下氏らが目指す再編後の政党に明確な政策の柱はあるのだろうか。
少し遡って、自民党時代から民主党政権までの政策の対立軸を思い出すと、主に経済・社会政策に関するものだった。そこで共通するのは、思い切った構造改革を是とするのか、言葉を変えれば、既得権グループと闘うのか、それとも既得権グループとの軋轢を最小化しながらの漸進的な改革を是とするのか、という対立軸だ。
元祖改革路線は、みんなの党の渡辺喜美代表である。その路線を掲げて選挙のたびに勢力を拡大してきた。みんなをお手本に大阪で旗揚げした維新の会の基本路線ももちろん思い切った構造改革だった。この両党が合流するかと思ったら、意外にも、維新は、改革に抵抗する政治家が多い石原慎太郎氏が率いる太陽の党と合流してしまった。
この合流は、有権者から見るとわかりにくかった。どこから見ても両者は似ても似つかぬ勢力である。私も、これは単なる野合だと批判し続けてきた。これで、維新の人気は一気に落ちた。石原氏と橋下氏が並んだツーショットはテレビ受けはよいのだが、それだけでは長続きしない。特に、理念なき野合だとマスコミや知識人に見切られた後は、維新関連のニュースは、完全に扱いが小さくなってしまった。慰安婦発言でそれに拍車がかかり、悪いニュースは大きく扱われ、良いニュースは全くと言ってもよいくらい取り上げられなくなってしまった。
そうなると、一般有権者にも影響が及んでくる。新聞の影響力が庶民に対しては落ちてきているとはいえ、やはり、マスコミをほとんど敵に回しては、戦いは非常に厳しくなっていたのが実情だ。今回、橋下氏と石原氏が袂を分かったのは、むしろ遅すぎたと言っても良いくらいだが、確実に維新にとっては良い効果をもたらすと考えられる。
しかし、ここで注意しなければならないことがある。今回、両者を分裂させる対立軸になったのは、経済問題ではなく、外交安全保障政策だったということだ。「自主憲法制定」という言葉をめぐる争いだと言われているが、もう少し問題は深いところにある。外交安全保障で、9条を含む憲法の全面否定による自主独立タカ派路線をとる石原グループと、そこまで極端な考えは取らないという橋下グループが分裂したのだ。
さらに複雑なことに、今回の分裂で、維新が、タカ派とリベラルの二つの勢力に分かれたのかというとそうではない。橋下グループには、石原氏ほど極端ではないものの、外交安全保障政策で安倍総理の考えに近いメンバーが非常に多い。元々大阪維新の会のメンバーの多くが自民党出身の地方議員だったことを考えればある意味自然なことである。彼らは、経済構造改革をめざして自民党から出たのであって、外交安全保障政策で自民党と対立したわけではないからだ。
しかし、橋下グループに安倍政権に近いタカ派的な議員が多いということは、今後の野党再編がわかりにくいものとなることを意味する。みんなの党から分派した結いの党の議員の多くは、維新の会に比べてはるかにリベラル色が強い。みんなと結いの分裂の原因の一つがタカ派的な政策で安倍政権に擦り寄る渡辺代表の路線に対し、比較的リベラルな江田氏らの議員が反発したことが挙げられる。その結いと維新が合流するには外交安全保障政策で難しい面がある。
他方、両者とも改革路線では一致しているので経済構造改革をめざして合流するのは極めて自然である。現に結いの党代表の江田憲司氏と橋下氏は、昨年の夏から、この路線での合流を目指して議論してきた。ただ、残念ながら、それだけでは、時代の流れに合わなくなってしまった。
何故なら、今後の政策の対立軸は、経済政策というより、主として外交安全保障政策となるからである。安倍政権が、矢継ぎ早に戦争志向の外交安全保障政策を打ち出してくる状況下では、維新と結いの合流直後から具体的課題への対応で次々に踏み絵を踏まされることになる。経済政策で一致していても、外交安全保障政策で一枚岩でなければ、新党の統一基盤は簡単に揺らぐことになるだろう。(以下略)
・・・・・・・・・この続きは、『古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン』vol094(2014年6月13日配信)に収録しています。なお本稿冒頭3行目の維新の会の橋下共同代表が確保した議員数を、正しくは「37人」のところ、しばらく誤った人数を掲載していたことを、お詫びいたします(『現代ビジネス』編集部)