二宮清純レポート
31歳、楽天ゴールデンイーグルス二塁手
藤田一也 挫折が生んだ「守備職人」の覚悟

週刊現代 プロフィール

藤田はふくらはぎへのデッドボールが原因で、過去に2度、長期離脱を余儀なくされていた。今回も最悪の事態を覚悟した。

ボクシングならタオル投入の場面である。星野自らベンチを飛び出し、藤田にこう告げた。

「もう、いい」

藤田は左足を引きずりながらグラウンドを後にした。巨人ファンからも惜しみない拍手が送られた。

トレーナー室に直行した藤田に、次から次へと仲間たちが駆け寄ってきた。嶋は泣きながら語りかけた。

「藤田さん、この試合、絶対に勝ちますんで」

直後にアンドリュー・ジョーンズのタイムリー内野安打が飛び出して4対2。ダメ押しのホームを踏んだのは藤田の代走・阿部俊人だった。

結局、シリーズは最終第7戦までもつれこみ、4勝3敗で楽天が激闘を制した。日本一の瞬間、過去の記憶が走馬灯のように蘇った。失意の底に沈んだのは、歓喜の前年の6月のことだった。

「楽天へトレードすることになった」

横浜DeNAの球団幹部から、そう告げられた藤田は一瞬、自分の耳を疑った。

プロ野球の世界にトレードはつきものである。それはわかっている。頭では理解していても、しかし、割り切れない思いが心の中にわだかまった。

「ショックでした」

振り返って藤田は言う。

「横浜に入りたくて入り、レギュラーになってチームを強くしたい一心で頑張ってきました。オフならまだしもシーズン中でしょう。そりゃ悔しかったですよ」

トレードを通告された日、藤田は大阪市内のホテルにいた。阪神との3連戦のさなかだった。

「翌日、横浜は沖縄への移動日だったんです。僕はホテルで皆を見送った。中畑清監督からは〝見送るのは俺たちの方だ〟と言われましたよ」

東京に戻ってトレードの記者会見を済ませた藤田は、その夜、東京ドームでの北海道日本ハム戦に出場した。9番・セカンドだった。