二宮清純レポート
31歳、楽天ゴールデンイーグルス二塁手
藤田一也 挫折が生んだ「守備職人」の覚悟

週刊現代 プロフィール

ピンチの場面ではマウンド上で、よく守り方を相談しました。将大とキャッチャーの嶋(基宏)が話し合って、〝スライダーを中心に外を攻めますので、藤田さん、一、二塁間に寄っといてください〟という指示が嶋から出る。しかも彼はコントロールがいいから、思い切ったポジショニングができました」

昨年9月、リーグ優勝までマジック2になった時のことだ。試合前、西武ドームの食堂でうどんを食べていると、星野が近づいてきて、藤田の横に座った。

そして、ボソッとつぶやいた。

「ここまで来られたのも、オマエがおったからや」

うれしさと緊張のあまり、藤田はその場で凍りついてしまったという。

「もう、うどんが喉を通りませんでした(笑)」

耳を疑ったトレード通告

藤田の〝激走〟に注目が集まったのは巨人との日本シリーズ第5戦である。2勝2敗のタイで迎えた東京ドームでのゲームは2対2の同点で延長戦に突入した。

1死二塁の場面でバッターは藤田。初球、巨人の4番手・西村健太朗のストレートが左ふくらはぎを直撃した。

温厚な藤田が、珍しく気色ばんだ。マウンド上の西村をにらみつけた。

プレーヤーにとってふくらはぎこそは〝弁慶の泣きどころ〟である。巷間、言われるような向こうずねではない。

かつて通算477盗塁の髙橋慶彦から、こんな話を聞いたことがある。

「ヒザの痛みもきついけど、まだ耐えられる。だけど、ふくらはぎはダメ。ナイフを突きつけられて〝走れ〟と命じられても、あそこはダメです。無理すると選手生命にも影響を及ぼしかねません」

続く銀次の打球はセンター前へ。楽天が3対2と勝ち越しに成功した。藤田は激痛に顔をゆがませながら走り、三塁へスライディングを敢行した。

次の瞬間、三塁ベースコーチの鈴木康友と目があった。我慢していた本音がポロッと漏れた。

「ちょっと、これ、ヤバイですね」

デッドボールを受けたふくらはぎは、もう限界に達していた。臀部にまで痛みが走り、筋肉がつったような感覚に襲われた。