第1回ゲスト:黒鉄ヒロシさん (前編)
「男の文化は伝承されるもの。我々も次の世代に伝えていかなくてはいけません」

島地 勝彦 プロフィール

日野 なるほど、「神殿」というのはわかりやすい表現ですね。

島地 私と黒鉄さんの神殿には、酒があり煙草があり、本がありアートがあり、70年生きて来た人生の軌跡というか、精神文化が凝縮されている。酸いも甘いも、たまには人にいえないようなことも含めて、膨大な経験の蓄積がある。若造には、なかなかわからないでしょうね。

黒鉄 経験値が違うのですから、わからなくて当然。でも「かっこいい」と思えるだけで、こっちの世界に来る資格は十分です。男の文化は伝承であり、先輩たちからいろいろと教えられたように、私たちも、次の世代に伝えなくていかなくてはいけないのだと思います。

先輩から後輩へ。伝承されるのが男の文化

島地 男の文化の伝承。これは黒鉄さんとぜひお話したい部分ですね。今、その伝承はうまく機能しておらず、このままでは、日本は悲しいぐらいに貧相な国に成り下がるという危惧がある。そうした状況に一石を投じる連載にしたいとも、私は考えているんです。

黒鉄 島地さんもそうだと思いますが、私たちが若かった頃は、仕事の先輩や年上の人たちと過ごす時間が、貴重な自分磨きの場になっていましたよね。

島地 その通りですよ。酒の飲み方一つとってみても、バーマンや先輩から教わりながら、少しずつ「さまになっていく」ものでしょう。今はネットで検索しただけで、「わかったつもり」になっている輩が多すぎる気がします。

黒鉄 シングルモルトにしても、マニアックに語るひとはたくさんいますが、請け売りの知識だけで終わるから、深みがない。蒸留所に行ったことのあるバーテンダーや、何年も飲み続けている先輩から諭され、教えられ、薄っぺらい知識の骨組みに肉付けしていく作業が文化の伝承であって、その過程が最高におもしろいわけです。

島地 現代は男の権威が失墜した世の中です。私は編集者としていろんな作家とおつき合いしてきましたが、若い頃、例えばシバレンさん(柴田錬三郎)から飲みに誘われたら、たとえデートの約束があったとしても「お供します!」があたり前でした。