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銀行前での喧嘩から数日後、アルタン君は盗んだ携帯を使って私に電話をくれました。それも深夜4時に。
「今日はいつも寝ている場所を人に取られたから、ずっと段ボールを引きずりながら寝る場所を探していたんだ。これから眠るところ。とても疲れたから、みんなで安いアルコールを買って飲んだ。日が出てきたから朝になったと思って電話したよ」
酔っ払っているようでした。夏といえど、夜には10℃まで気温が下がるモンゴル。寒空の下、段ボールを引きずりながら歩くのは厳しいものです。私は、朝9時に彼がいる場所に行く約束をして、電話を切りましたが、なかなか眠ることが出来ませんでした。
アルタン君はこれまでにも何度もSOSをくれていました。私は一度、代表を務めるNGOで彼を支援する議題を提案しましたが、否決され、組織からの支援は叶いませんでした。個人的にも支援を求められてきましたが、リスクを考えてそれまでは応えることは出来ていません。しかし、私が支援を行えずにいる間、彼の状況は悪くなっていく一方でした。このまま何もしないでいいのか、自問自答し、「個人的に支援しよう。帰国までの間に出来る限りの事をしよう」と決意し、眠りにつきました。
翌朝、約束の場所に行くと、アルタン君は段ボールの中でもきれいなものを選んで、私のために埃を払って座らせてくれました。
彼が寝泊りしている場所は、ブルースカイという高級ホテルのすぐ裏にある草むらの一画でした。7人の男女で行動を共にしていて、他のグループに寝床を取られない限りはそこで寝ているそうです。どうやって生活の糧を得ているのか、聞くと、彼は一瞬黙りましたが、窃盗集団に属していることを正直に話してくれました。7人は全員で連携して、人々が集まる広場やデパートで、財布や携帯を盗んだり、女の子たちが売春婦を装ってホテルに男性を誘い出した後、ホテルの前で男の子たちがかつあげをしたりしてお金を得ていると言います。アルタン君は、もう二度と刑務所には行きたくないという思いから、実行犯ではなく見張り役を務めているとのことでした。
アルタン君の窃盗集団の仲間たちを紹介してもらい、私は驚きました。女の子たちはオシャレをして、化粧もしていて、とても路上暮らしをしているようには見えません。お金持ちのご令嬢、と言われても違和感がないほどでした。聞けば、洋服は近くの川で毎日洗っており、時間を持て余しているため、化粧を念入りにしていると言います。