特別対談 加藤陽子(東京大学教授)×高木徹(NHKディレクター)---「国際メディアと日本人」

加藤陽子, 高木徹

高木 メディア空間で語られる言説とは、突き詰めれば、その社会の多様性や価値観、そこで行われるコミュニケーションの質が反映されたものに他なりません。世界的に影響力のあるメガメディアは、何がその信頼を支えているかというと、民主主義を守るジャーナリズムの約束事、たとえば「報道や表現の自由」とか「経営と編集の分離」などの原則が、当たり前のこととして社会の中で生きているからです。

加藤 そうですよね。そういうルールを守ったうえで、国際メディア情報戦は展開している。いくら有利な世論をつくりたいからといって、ゲームのプレイヤーは噓や捏造は絶対にしないとご本の中で強調されていましたね。

ところで、高木さんはいまのウクライナ問題をどう見ていますか?

高木 国際メディア情報戦という視点で見ると、またひとつの新しい事態だと思います。

というのは、プーチン大統領は、問題になっているクリミアを事実上支配下においても、BBCもCNNも、ほぼ自由に取材させていましたね。批判的なメディアを排除していない。どこまで狙ってやっているのかわかりませんが、結果的にこれは、メディアが格好の批判の標的とする「報道の自由がない」状況を巧妙に避けているんです。

そのうえで、ロシアがクリミアに軍隊を送りこんでいることは明白なのに、「あれはロシア軍じゃない」と平然とシラを切った(笑)。そのために彼らが目出し帽を被っているのはメディアのカメラを意識している証拠です。もちろん、アメリカもヨーロッパ諸国もメディアもそんなのは噓だと批判するわけですけど、それ以上どうしようもないんです。

加藤 不承認と言いつづけることしかできませんよね。私はウクライナ問題を見ていると、満州事変のことを思い出します。満州事変でも、やっぱり同じように、日本軍の謀略じゃない、あれは関東軍じゃないというようなシラを日本は切ったわけです。だから、ある意味で「成功した満州事変」を見せられているような気分になります。

高木 ふつうに考えて、ああいう大きな国の軍隊が、徽章もつけずに他国に行くなんてありえないですよね?

加藤 国籍不明の軍隊を装えるユニットを一定数準備していたことにも戦慄します。

さらに、その時に送り込んだ六千人という単位も、歴史的に思い当たることがあります。日本が日清戦争を始める時に、朝鮮半島を縦断して清国を攻めるために、朝鮮王宮に言うことをきかせようと日本が混成旅団として準備したのが六千人でした。このあたりは今も昔も変わらない。

それからロシア海軍がおこなった港の「閉塞作戦」(港湾の入り口に大型船舶を沈めて、湾内の軍艦の身動きをとれなくする)というのも、日露戦争の時に日本が旅順港でやったことです。

その意味で、ロシアが今やっていることは、帝国主義の時代を彷彿とさせます。

善悪の絶対的な論拠

高木 情報戦に関して面白いのは、冷戦時代に逆戻りしたような東西の対立構図がある一方で、ロシア側もロシアを批判する側も、互いに相手を責める根拠として、ナチスドイツとの共通点を挙げていることです。