「残念ながら、裁判官は国や大企業など、権力に弱いのです。JR東海のような巨大組織が原告の場合、たとえ賠償請求を却下しても上級審で覆されることが多い。そうなると自らの経歴に傷がつくから迎合したのでしょう。それにしても、裁判官が徘徊老人を介護する家族の苦労をまったく理解していないのは恐ろしい」
昨年8月の名古屋地裁の一審判決はもっと酷かった。
上田哲裁判長は〈民間のホームヘルパーを依頼したりするなど(在宅介護をするうえで)支障がないような対策を具体的にとることも考えられた〉などとして、別居の長男にも720万円の賠償命令を下したのだ。老老介護状態だったB子さんにも容赦しない。
〈まどろんで(Aさんから)目を離していたのであるから、注意義務を怠った過失がある〉と、やはり720万円の支払いを命じている。
国民の多くが「そんなバカな」と仰天する判決を下す裁判官たち。彼らはいったいどのような人物なのか。
いつでも権力に味方する

一審の上田裁判長はそのキャリアのほとんどを東京地裁で過ごしている。
「東京地裁の判事時代には、業務上過失致死罪で、〝血友病の権威〟安部英医師が逮捕・起訴された薬害エイズ事件を担当。安部医師に無罪判決を下しています。その直後、出世コースである最高裁の調査官に栄転。千葉地・家裁判事などを経て、'12年から名古屋地裁の部総括判事に就任しました。幹部候補生であることは間違いない」(全国紙司法担当記者)
裁判官の世界ではエリートだが、常識はない。25年前から認知症患者のケアをしている精神科医の和田秀樹氏が憤る。
「地裁はAさんの4人の子供のうち、最も介護に腐心した長男の責任だけを認定しました。これでは、怖くて誰も親の面倒をみられなくなってしまう。正直者がバカを見ることになるからです。二審は妻の責任だけを認めましたが、老老介護の立場になったら、認知症になった連れ合いを捨てるか、心中してしまえと言わんばかり。家族の不安をひどく煽っています」
二審の判決を下した長門裁判長は横浜地裁で判事補としてキャリアをスタートさせた。以後、松江、盛岡、大阪、京都と20年以上にわたって地方の裁判所を転々としたが'00年4月、名古屋高裁の判事に抜擢されると、名古屋地裁の部総括判事、名古屋高裁金沢支部の部総括判事と出世を果たした。