ビットコインが「良貨」になりうる3つの理由

『「ビットコイン」のからくり』前書き
吉本 佳生, 西田 宗千佳 プロフィール

 そしてビットコインは世界で広まり、各国のマスメディアから強い注目を集めるところまで成長しました。カナダや香港では、ビットコインのATMまで登場しています。日本国内でも、ビットコインで飲食代金を支払える店が出てきました。

 ところが、注目度が高まった2014年2月に、当時最大規模のビットコイン取引所だったマウントゴックス(Mt.Gox)が、「預かっていたビットコインのほほ全額を消失した」と発表して経営破綻しました。他の取引所でのビットコイン価格で計算して、500億円近い損失が発生したとされます。

 マウントゴツクスの破綻はビットコインが消えるきっかけになる、と予感する人もいました。逆に、世間の注目度が増して、問題点が修正されやすくなり、ビットコインのような暗号通貨が発展するための薬になると考えた人もいました。結果が明らかになるには、しばらく時聞がかかりそうつです。

 しかし各国政府は、このイノベーション(技術革新)をどう評価するか、危険な錬金術とみなして抑え込むか、希望に満ちた新ビジネスとしてつき合うかの対応を迫られています。現実には、もっと複雑な対応が求められそうです。中国政府は禁止を選ぴましたが、データでできた通貨を排除するのは簡単なことではありません。アメリカやドイツは金融資産として、日本政府はモノ(実物資産)として認めることで、課税対象にと考えました。しかし、納税者の協力がない場合、ビットコイン取引への課税はむずかしいかもしれません。

 では、ビットコインのしくみは技術的にみて本当に安全なのでしょうか? いずれ暗号が破られてしまう恐れはないのでしょうか?

 そもそも、暗号通貨は、通貨制度としてきちんと成立・安定するのでしょうか? 金などの価値の裏づけがまったくなく、数学(計算)が通貨を生むなんて、詐術的ではないかと疑いたくなります。

 本書の筆者たちは、この執筆を始める直前まで、ビットコインのような暗号通貨の未来に対して懐疑的でした。ビットコインの存在そのものが、ニュートンがハマった南海バブルと同様に、これまで何度もくり返されてきたバブルのひとつに終わるのではないか、と懸念していたのです。

 そうなれば、ニュートンは〝最後の魔術師〟の称号を返上できそうですが、じつは、ビットコインのような暗号通貨は、技術的にみても、経済社会システムのひとつとしても、十分に成立・安定・発展する可能性があると、筆者たちは考えるようになりました。あくまで「可能性」であり、また、暗号通貨が成功した未来でその中心にあるのは、いまのビットコインではなく、改良型の暗号通貨かもしれません。

 しかし、キプロスの金融危機がビットコインの人気につながったように、世界経済の動向のなかで、ビットコインを資産運用(投資、投機)対象とみる人が広がる可能性はあります。なにより、もしビットコインのような暗号通貨の利用が一般化すれば、少額の国際決済が簡単になります。これほどグローバル化が進んだ現代でも、3000円相当の外貨を海外の誰かから受け取ろうとすると、じつはむずかしいという事情があります。手数料が高すぎて、銀行を通じての送金が事実上使えないからです。

 つまり、暗号通貨にはニーズがあります。背後に、大きなビジネスチャンスがあるのです。しかし他方で、筆者たちもふくめて多くの人が疑念と不安を抱いています。電子マネー、クレジットカード、プリベイドカード(プリカ)、企業や店が発行するポイント、ゲーム内の通貨などと、ビットコインがどうちがうのかわからないとの声も聞こえます。