2014.05.16

明日(あした)はあなたも殺人犯!

検証「恵庭OL殺人事件」再審棄却決定
瀬木 比呂志 プロフィール

 また、電話の宛先については、携帯電話の着信履歴とメモリーダイヤルを見てかけられた可能性が高く、したがって、宛先についても、容疑者でなければかけられないようなものではないという(以上につき、伊東書32頁、133頁以下)。

不審人物の存在

 なお、伊東書によれば、実際、本件会社には、かなり不審な人物が存在し、怪しい内容の供述調書が取られているという。同書63頁以下と48頁は、次のように述べている。

 この人物の事件当夜のアリバイは妻しか証明できず、この人物は、問われもしないのに、女子更衣室のロッカーから自分の指紋が出てくるはずであるとしてその理由(素手でそのロッカーを運んだことがある)について語っており、容疑者の交際していた男性に対しては徹底的な敵対感情をもっていると供述している。さらに、事件から23日後の4月8日に、マスコミ関係者がいるかどうか確かめに容疑者方に行こうとし、そのアパートの前で彼女に会ったが、なぜか、「会ったことを内緒にしてくれ」と言って別れたと供述し、また、4月14日の容疑者の任意同行時に、彼女は小柄で犯人とは思えず意外だという気持ちと、彼女一人ではできないのではないかという思いとから、「うちの職場からこうやって連れて行かれる人はまだまだ出る」と同僚に話した、とも供述している。なお、この人物が容疑者と会った4月8日の夜に、彼の歩いていたあたりの草むらから、事件の後に紛失していた「容疑者の携帯電話」が出てきたという事実もある。

 それ以外の情況証拠の主なものは、容疑者が事件の前日の夜に10リットルの灯油を買っていること、被害者の携帯電話がそのロッカーに戻されていたこと、警察の捜査によれば被害者のロッカーキーが容疑者の車のグローブボックスから出てきたとされていること、容疑者の車の左前輪タイヤの傷(検察は炎の熱によるものと主張)、4月15日に容疑者の家から3.6㎞離れた森から被害者の焼かれた遺品が出てきたことである。これらについて、簡単に触れていこう。

 まず、容疑者が事件前夜に10リットルの灯油を買っていることは事実である。彼女は、自分が疑われていると聞いて動転し、車のトランクに入れたままだった灯油を容器ごと捨ててしまい、自分にとって有利な決定的な証拠を、みずから消滅させてしまった。この事実と、彼女が被害者に無言電話をかけていた事実を隠していたこととが、裁判で彼女に不利に作用することになる。しかし、考えていただきたいが、これらの事実だけでは彼女と犯行を結び付けるにはとても足りない。冤罪事件では、容疑者に、何らかの不利な事情、あるいは、軽微な余罪等がある場合が多い。だからこそ、警察の見込み捜査のターゲットにされることにもなるのである。

 次に、被害者の携帯電話がそのロッカーに戻されていたことは、それだけでは容疑者と結び付く事柄ではない。また、被害者のロッカーキーについては、伊東書は、6月10日の容疑者宅家宅捜索後に容疑者のバッグのふたが開いており、そこから押収品目録交付書が出てきたことなどから、警察による捏造の可能性が高いという(つまり、警察は、被害者のロッカーから持ち帰っていたキーをその後に容疑者の車のグローブボックスに入れるという偽装工作をしたが、その際、当然容疑者に交付すべき押収品目録交付書を容疑者に交付することを忘れてしまった、これが明らかになれば偽装工作がばれてしまう、そこで、やむなく、後の家宅捜索時に容疑者のバッグにしのばせた、という推理である。袴田事件で警察がズボンの端布を袴田氏の自宅から発見したようにみせかけた手口に似ている。前記『g2』の記事参照)。