4月からスタートした連続ドラマの中では、TBSの『ルーズヴェルト・ゲーム』(日曜午後9時)が抜群に面白い。視聴率は初回が14.1%、第2話が11.8%と平凡だが、近年ではあまりお目にかかれない泥臭い男たちの物語で、中年男の筆者には堪えられない。作品の完成度も高い。
同じスタッフが制作した昨年の『半沢直樹』は都市銀行の世界が鮮やかに点描されたが、今回はメーカーの内情が見事に再現されている。両作品とも原作者は銀行出身の池井戸潤氏だが、同氏が巧いのは銀行モノばかりではない。取材が行き届いているからだろう。ドラマにおいてもロケ地選びや小道具、衣装などに手抜きが見えない。
主人公の青島製作所社長・細川に扮しているのは唐沢寿明で、いつもながらの好演を見せている。唐沢は昨年、NHKがやはりメーカーの内情を描いたスペシャルドラマ『メイドインジャパン』にも主演したが、こちらは残念ながら成功作とは言い難かった。唐沢に責任があった訳ではない。ストーリーにリアリティーが欠けていたのだ。
『メイドインジャパン』で首を捻った点の一つは、会社再建のために立ち上げられた極秘チームの部屋が、自社工場内の一角に設けられていたこと。工場内に本社の営業部長である唐沢や財務担当者、法務担当者、社長秘書らが集結したのたが、これはあり得ない話だ。
メーカーの工場の入り口には守衛がいて、人の出入りを厳重にチェックしている。大切な製品を作っている場所なのだから、当たり前だ。普段、滅多に現れることのない本社の人間たちが足繁く通えば、たちまち噂になってしまい、不審の目が向けられ、極秘の会議や作業が成立するはずがない。
極秘チームは、その存在や任務を同僚や家族にも明かしてはならないという触れ込みだったが、それならば工場に集まるはずがないのだ。工場の構内には組合員たちが大勢いる。財務や社長秘書らの姿を構内で見掛けたら、組合はたちまち色めき立つ。極秘チームは人員整理も検討するが、その対象となる組合員たちが本社の人間の動きに鈍感であるはずがない。
制作陣としては、メーカーの極秘チームだから、工場の片隅にいたほうがリアルだと思ったのだろうが、守衛と組合員の目をかいくぐることなど土台無理。メーカー勤務のビジネスマンたちは一様に同じ思いを抱いたのではないか。