漫画『賭博黙示録 カイジ』とは?
自堕落な日々を過ごす主人公、伊藤開司(いとう・かいじ)。そのカイジが多額の借金を抱えたことをきっかけに「帝愛グループ」をはじめとする黒幕との戦いに挑んでいく大人気漫画。命がけのギャンブルを通じて、勝負師としての才能を発揮するカイジだが、その運命は果たして・・・。
(作者:福本伸行 講談社『週刊ヤングマガジン』で1996年11月号~1999年36号まで連載された作品)
【第12回】はこちらをご覧ください。
かつて「働いたら負け」という言葉がネットで流行っていたことがありました。そうつぶやいた人たちは、一体、誰と戦っていたのでしょうか?
働くことはたしかに、楽なことではありません。体を壊すまで働かされるのは間違っていると思いますが、人間は「楽」をしてばかりでは生きていけない。ぼくはそう思っています。
たとえば、ハワイが大好きな人にとって、ワイキキビーチで横になりながら冷たいビールを飲んでいる時は最高の瞬間でしょう。すぐそこにいるウェイターに声をかけるだけで、好きな食べ物と飲み物が運ばれてきます。とても"楽"ですし、これぞ"至福の時"といえるでしょう。ずっとこんな生活をしていられたらどんなにいいかと想像するだけで、逆にため息が出る人もいるかもしれません。
しかし、考えてみればわかるとおり、ハワイのビーチでビールを飲んで寝てばかりいたら、やがて貯金が底をつき、カイジと同じ運命を辿ることになります。つまり"楽"しいことをずっと続けていると、誰もがカイジの世界に入ってしまうわけです。
しかし、人生は一度しかありません。楽しくなければ、何のために生きているのか? という気分になってしまうこともあるでしょう。そう感じて現代社会に希望を見出せない人が、特に若い世代に多数いるように感じます。
1997年に『カイジ』の作者の福本伸行先生が監修して出版された『カイジ語録』にこういう一節がありました。
「僕はよく、『快楽』って言葉にかこつけて言うんですが、人生は『快』と『楽』の二者択一じゃないかと。何かを一生懸命やって、それができた時が『快』。『楽』ってのは、ああもういいやっていって辞めて、ビールを飲んで寝転んで、ナイターを見る(笑)。それが『楽』です」
これは非常に示唆に富む言葉です。「快」も「楽」も至福には違いありません。けれど、「快」と「楽」は大きく違います。