日本が元気だった時代の象徴田中角栄を語ろう

「金権政治の権化」と呼ばれ、逮捕もされたそれでもオヤジのあの笑顔が忘れられない
週刊現代 プロフィール

山本 総理になった後も原点としてあった視点は、「ちゃんとメシが食えているか」だったと思います。密着取材を始めた頃、僕は「路傍の石」扱いで、まったく相手にされなかった。ところが、角さんが地元に帰る列車の中でトイレに行こうとして、たまたま僕の横を通った。そのとき、「おいキミ、メシは食ったのか」と聞くんです。聴衆や政治家に対しても、メシが食えているかと、生活のことを真っ先に気にかける。

朝賀 選挙でオヤジが田中派の応援に行くと、「闇将軍」を撮ろうとカメラマンが殺到するんですが、オヤジはカメラマンを遮るSPたちに、「彼らも商売だから」と言う。そしてカメラマンには「おい、その代わり、いい男に撮れよ」と言っていましたね。

山本 ただ、いつもそうだったわけではないと思います。新潟の西山町の実家で、浴衣姿の角さんが地元の人たちと大笑いしていたときです。僕が撮ろうとすると、ピシャッと「撮るんじゃないよ」と言う。支援者が持っていた小さなカメラで記念写真だけを撮れ、と。

つまり、写真が嫌いなのではなく、撮る側の心を読んでいる。ギラギラした野心でカメラを向けると、そっぽを向く。撮り手への洞察は怖かった。

後藤 私が角栄番になった頃、角さんは若い記者全員を赤坂の料亭に呼んだんです。いつも玄関の外で立って待っているだけのわれわれを料亭の中に入れて、「いいか、日本の政治はこういうところで動いているんだ」と言う。私たちはそこで初めて料亭の間取りや造りを知りました。まずは実地で学べ、というわけです。

そして角さんは「二度目にここに来られるかどうかは、キミたちの才覚次第だ」とも言う。記者たちは角さんに親近感を持つが、そこから先は城壁のように高い壁があり、なかなか情報は取れませんでしたね。

封印されたスクープ写真

朝賀 相手の心を読むだけではなく、勘や先見の明も特筆すべきものがありました。30年前の演説で、「小選挙区制度が一番いいんだよ。自民党の党是である憲法改正ができるかもしれない。しかし、小選挙区制にしたら、自民党も政権を失うよ」と言って、後にそのとおりになった。オヤジは党内や世論を見て、「小選挙区は利あらず」と判断して、旗を降ろした。もともと改憲と平和主義は別物という考え方でしたから。

後藤 私も心を見抜かれたことがあります。首相候補を田中派から出せないことに焦りを感じていた竹下登さんと金丸信さんが、創政会を旗揚げした直後のことです。事実上、田中派が分裂し、角さんは大荒れに荒れて、朝からオールドパーをあおっていた。私は角さんの機嫌を損ねないように取材をし、握手をしたとき、「キミたちは顔では笑っているけれど、心は竹下だ」と、見抜かれた。