常見陽平「若者に、『頑張れ』と言いっぱなしをする社会は、そろそろやめにしよう」【第3回】

『「できる人」という幻想 4つの強迫観念を乗り越える』より

また、次のような自己責任アピールは、新自由主義の台頭を感じさせるものだ。日本マクドナルドの藤田田社長は「少子高齢化などの不安を抱えるが、政府は何もしてくれないと考え、自分たちで切り開く気概を持て」と語り、武田薬品工業の武田國男社長は「自己責任原則を確認し、これだけは人に負けないというものを身に付けろ」と述べる。

日経の編集委員は、こうしたトップ訓示の特徴を振り返りつつ、訓示は経営者こそ意識せよと論じている。終身雇用や年功序列などが崩れていく中、優れた経営をしなければ若者は逃げていくと指摘しているのだ。これは、2006年に発売されてベストセラーになった『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(城繁幸、光文社新書)の主張に極めて近い論理である。

入社式の訓示は、経営者こそが意識すべきである。これは正論だ。暗い時代の入社式を振り返ると、本来は経営者が考えるべきことを若者に転嫁していると感じてしまう。

プロとは何かを具体的に説明

平成12(2000)年の入社式報道には、大きな変化が見られた。

90年代半ばから、「自立」「成長」「挑戦」などのキーワードが頻出していたが、なかば言いっぱなしの状態で、あるべき社員像を提示していなかった。だが、この年の入社式特集では、個々人に求める力を具体的に紹介している。かつては「一人一人の資質向上を」というのが入社式訓示の決まり文句だったが、具体的にどんな力を要求しているのか、社長たちが打ち出し始めたのである。

象徴的なのは、三菱商事の佐々木幹夫社長の発言だ。「私が求める『プロ』とは商品や業界を熟知しただけの単なる物知りではない。新しいビジネスの仕組みを開発・構築できる知的戦闘力を備えた人だ」と述べている。このほかにも、ビジネスの構想力などをうたう訓示が散見された。

また、この年にはソフトバンクの孫正義氏、日本電産の永守重信氏が紙面に初登場。これまでは、いかにも日本の伝統的大企業の社長ばかりだったが、最近のビジネス誌にも登場するような社長が取り上げられるようになった。

別の観点でも、これまでとは違った傾向が見て取れる。カネボウの帆足隆会長兼社長は「学級崩壊や成人式での一部の若者の無軌道な行為が社会問題となっており、企業としても若い人たちの人格的な育成に関与せざるを得ない。様々な研修プランを用意しているが、そうした機会をとらえて成長できるかは諸君自身にかかっている」(平成13年)と述べている。入社式の場で学級崩壊や成人式の例を挙げるのはどうかと思うが、若者の資質に対する懸念の表明であろう。これまでは若者に言いっぱなしの訓示が多かったが、このあたりから若者に対する懸念の声が登場する。

この時期の入社式訓示は、多くの社長が変わらず「危機感」をネタにしている。あえて特徴をあげれば、花王の後藤卓也社長が「心しなければならないのは、消費・購買行動、流通・小売業界、グローバル化の進展という『3つの変化』だ。過去の成功体験にこだわらず、このままではいけないとの健全な危機意識を持つことが、積極的で前向きな企業姿勢を生み出す」(平成15年)と述べているように、時代の変化をより具体的にコメントするようになっていることだろうか。

CSRとグローバルが叫ばれて

入社式の報道は、次第に扱いが小さくなっていく。だが、新しい兆候が見て取れなくはない。平成16(2004)年には「CSR(企業の社会的責任)」という言葉が初登場し、平成17(2005)年からは「グローバル」という言葉が頻出するようになる。

平成17年の報道記事において、トップで紹介されているのはニッポン放送だ。そう、当時の同社は、堀江貴文氏が社長を務めていたライブドアから敵対的買収を仕掛けられていた。亀渕昭信社長は「役員も社員も全社一丸となってこの(買収)問題に取り組んでいるので安心してほしい」と話し、「挑戦」という言葉を繰り返したという。グループ会社であるフジテレビジョンの村上光一社長は「今大事なのは全社員が同じ方向を向き、1つにまとまること。パワーを落とさず元気でいこう」と語っている。その一方で、楽天の三木谷浩史会長兼社長が入社式報道に初登場している。ちょうどプロ野球参入を果たしたばかりだった。