追悼 涙なしには読めません「お前の父ちゃん、また人を殺したな」——いじめられる我が子を前に、父は言葉を呑んだ 名優・蟹江敬三「ごめんな、パパが悪役で」

週刊現代 プロフィール

だが、蟹江がプライドを持って悪役を演じ、徹底して役にこだわるほど、家庭では厄介な問題が持ち上がるようになった。

「お前の父ちゃん、また人を殺したな」

蟹江が演じる凶悪犯があまりに真に迫っていたことから、子供が学校でいじめに遭うようになっていたのだ。'07年に長男の一平はトーク番組『スタジオパークからこんにちは』に出演したさい、「いじめに遭い、父に反抗したことがある」と告白した。

悪役を演じるせいで、子供がいじめられる。それでも蟹江は悪役を演じ続けた。あるとき、蟹江が酒席でふと、こんな話を口にしたことがあったという。

「『やっぱり、悪役は面白い』と言うんです。どう表現するか、どう気持ちをもっていくのか、そういう部分に蟹江さんはやりがいを感じてらっしゃったのだと思います」(前出・尾美氏)

これが俺の仕事なんだ

「普通の人を演りたい」

そう漏らすようになったのは最近になってのことだ。いくら仕事に誇りを持っていても、父親として子供たちに申し訳ないという気持ちをどこかで抱いていたのかもしれない。蟹江自身も子供のころ、決して恵まれた環境で育ったわけではないだけに、家族への思いは人一倍強かった。

前出の蜷川氏は、蟹江本人から、自分が映画やテレビに出続ける理由をこう聞いていたという。

「(子供のころに)いなくなったお父さんが自分の姿を観て、名乗り出てくれるかもしれないから、と言うんだ。お父さんには会えたのかな……」

普段の蟹江は、そうした自身の苦悩について漏らすこともなく、シャイで寡黙だった。TBS系で放送された『ソープ嬢モモ子』シリーズなどで何度も蟹江と共演している竹下景子は、彼のそんな姿勢を見てきた。

「ドラマのロケで山梨県の八ヶ岳に行ったときのことです。自然があまりに綺麗で、撮影の合間に女性スタッフと散策に出かけたんです。蟹江さんも散策されていたんですが、私たちはくたびれて一足先に引き上げました。ところが、それをご存知なかった蟹江さんは『彼女たちが迷子になった!』と何時間も山中を捜し歩かれたのです。宿舎のペンションに戻ってきた蟹江さんは汗びっしょり。平身低頭で謝る私に『いや、いや』と照れ笑いを浮かべていらっしゃいました」