2014.05.06
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追悼 涙なしには読めません「お前の父ちゃん、また人を殺したな」——いじめられる我が子を前に、父は言葉を呑んだ 名優・蟹江敬三「ごめんな、パパが悪役で」

週刊現代 プロフィール

高校時代、自分の天職は俳優だと確信した蟹江は卒業後、「劇団青俳」の門を叩く。'68年、青俳で出会った演出家の蜷川幸雄氏と「現代人劇場」を立ち上げ、'72年には「櫻社」を結成。以後、日活ロマンポルノの『赤線玉の井ぬけられます』('74年)のヒモ役、『犯す!』('76年)の強姦魔など、悪役で名前を売っていく。

「極めつきはドラマ『Gメン'75』の望月源治役でしょうね。OL5人を暴行目的で拉致して殺害。逮捕されても護送中に逃走するなど、いまもドラマ史上最強の悪役と言われています」(スポーツ紙芸能担当記者)

名悪優として業界の評判はうなぎのぼりとなったが、めったやたらに悪役を演じていたわけではなかった。蟹江の口癖は「役に良い役も悪い役もない。面白い役かつまらない役か、それだけだ」。そう言って、悪役や汚れ役でも引き受けた。

'70年代当時、日活ロマンポルノの助監督として蟹江と仕事をしていた東北芸術工科大学学長の根岸吉太郎氏が振り返る。

「ロマンポルノなのに、女性と絡むシーンで蟹江さんは裸にならないんですよ。おそらくこれが出演の条件だったんでしょう。自分が演じるべき役があるときだけ、ロマンポルノに参加していたのだと思います」

「やっぱり、悪役は面白い」

50年近いキャリアの中で、蟹江が一度だけ主演を張った映画がある。武骨な高知の老漁師を演じた『MAZE』('06年)だ。同作の岡田主監督は、蟹江のプロの仕事に度肝を抜かれた過去を持つ。

「舞台が高知ですから、方言指導者を準備していたのですが、その必要はありませんでした。蟹江さんの土佐弁は完璧だったのです。初主演作でしたが、ご本人は名バイプレイヤーという表現が好きじゃないそうで、主役だろうが脇役だろうが『自分の役を全うするのが役者』とハッキリ、おっしゃっていました」

『あまちゃん』や『鬼平犯科帳』で共演した尾美としのりは、蟹江を「しんどい」と表現した。

「一見、穏やかに見えますが、テンションはものすごく高いんです。身体の内側から役になりきるというか、内側から気持ちが溢れだすような演技をする。たとえば犯罪者役をやるとします。蟹江さんは『なぜその男は犯罪に走ったのか』というところから掘り起こす作業をする方だと思います。犯罪者と同じ深層心理、同じ感情になる。これは体力も精神力も消耗します。

毎回、毎回、役に入りこむ努力と準備をしっかりされる。手を抜かない。しんどい、つらいだろうなと思います。共演するたび、すごいなと思っていました」

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