館淳一 第4回 「実はオンナと同棲しています」と土下座して始まったシマジの集英社生活

島地 勝彦 プロフィール

シマジ 館の実家は稚内の網元で、生まれながら気前がいいんだろう。このときとばかりトロを喰いまくったんだけど、いざ勘定になると「シマジ、ここはおれに払わせてくれ」という。「どうしてだ。割り勘でいいだろ」というと、「お前は3日後に結婚式を挙げるんだろう? これはお祝いの一つと思ってくれ」なんて、泣かせることをいうんだよ。

 そんなことあったっけ? 全然覚えていないな。

セオ シマジさんは集英社に入社してすぐ結婚式を挙げたんですか?

立木 出来ちゃった婚だったんじゃないの?

シマジ ちがう、ちがう。集英社に入る前からいまの女房と同棲していたんだ。採用される前、当時はどこの会社もそうだったようだが、総務部長がアパートに突然訪ねてきて部屋のなかを偵察するんだ。多分左翼系の本がないかどうかをみにきたんだろうね。石橋さんという恰幅のいい立派な紳士だったんだが、おれのアパートに入るなり「女の匂いがする」というじゃないか。

そのときおれは青くなって畳に土下座して、「じつはわたしは女と同棲しています。彼女はJTBの海外旅行部で2年前から働いています。わたしが集英社に入社出来たらすぐに結婚します」と正直に告白したんだ。

石橋部長が「それは本当だろうね?」というから「約束いたします!」と答えるしかなかった。だから合格通知をもらったその日に電話して集英社を訪ねて行き「約束通り、彼女と結婚式を挙げます」と報告したんだ。ついでに「石橋部長、どこか結婚式場を紹介していただけませんか」とお願いもした。

立木 まったく、シマジは若いときからあつかましいやつだったんだね。

シマジ 石橋部長は集英社の近くにある如水会館を紹介してくれた。しかも名刺に「シマジ君をよろしく」と書いてくださった。たぶん石橋部長は会社にはおれの同棲のことは一言もいっていなかったと思うね。

 たしかにシマジの結婚式は如水会館だった。本郷専務も石橋部長も販売の堀内部長も出席していたよね。