[裏方NAVI]
広瀬勇人(スキーブーツチューンナッパー)<後編>「パラリンピアン小池岳太への期待」

スポーツコミュニケーションズ

 “無頓着さ”が生み出す大きなズレ

 広瀬は当初から小池のブーツのチューンナップを手掛けてきた。しかし、小池は一度、広瀬の元を離れたていた時期があったという。それは「岳太にとっては非常に重要なことだった」と広瀬は語る。
「もちろん、自分の腕には自信はあります。でも、決して僕だけが全てだとは思っていません。どこでチューンナップをするかは、選手の自由ですし、他人に流されずに自分の意思で決めるということは大事なことですからね。一番重要なのは、ブーツチューンナップの重要性を認識していること。そして、選手自身が納得したブーツを作ることなんです。僕のチューンナップがいいと思えば、また選手は必ず戻ってきてくれる。その自信もあります」

 数年後、小池は広瀬の元へと戻ってきた。バンクーバーパラリンピックを直前に控えた2009-10シーズンに入る少し前のことだった。しかし、小池のブーツを見て、広瀬は驚いた。世界最高峰の舞台に臨もうとしている選手だというのに、小池の足にブーツがまったく合っていなかったのだ。
「スキー板の性能を引き出すためには、スキー板と一体化することが重要なんです。それには選手とスキー板をつないでいるスキーブーツがフィットしていることが大前提です。ところが、岳太のブーツはまったく足に合っていなかった。それもわずかな差ではなかったんです。それこそ25センチサイズの選手が27センチサイズを履いているというくらい、明らかに違っていました」

 それほど大きな差に、なぜ小池は違和感を持たなかったのか……。広瀬に言わせれば、「無頓着だった」のひと言だという。
「ブーツはかたいので、バックルを締めると、足とスキー板をつないでしまう。脱げることはないんです。ですから、無頓着な人は合っていないということもわからない。当時の岳太はそのひとりでしたね」

 その後、小池のスキーブーツは大幅にサイズダウンされ、正しい骨格の配列でスキー板に乗れるようにインソールやシェルの加工とバランス調整などが施された。そのブーツを履いて初めて滑った小池は「全然、違いました!」と嬉しそうに笑顔で報告に来たという。広瀬にしてみれば、「おいおい、今頃!?」と言いたくもなったのは当然だろう。だが、半ばあきれると同時に、広瀬は小池の素直さも感じていた。小池は指摘されたことを素直に受け入れ、深く反省するタイプ。さらにそれだけではない。彼は自らトライすることのできる選手なのだ。

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