『教育の力』著:苫野一徳---これからの教育を構想する

ではこの問いの〝答え〟は何か。それはぜひ本書をお読みいただければ幸いですが、本書ではこの〝根本原理〟に基づいて、先述したように、これからの学びのあり方から学校のあり方、教師の役割からまたこれからの社会のために教育にできることにいたるまで、具体的な教育の実践・構想のアイデア・プランを、多方面にわたって論じ尽しました。

ポイントは二つあります。一つは、学びのあり方を、今のような画一的・一斉型のものから、学びの「個別化」「協同化」「プロジェクト化」の融合型へと転換していくこと。もう一つは、閉鎖的になりがちな学校を様々な仕方で開き、子どもたちが多種多様な人たちと交われる空間をつくること、です。

学びのあり方も進度も、興味・関心も人それぞれ異なっているものです。その意味で、画一的・一斉型の学びは、実は非常に効率の悪いものです。それゆえわたしたちは、学びをまず徹底的にカスタマイズする必要があります。

しかしそれだけでは全く十分ではありません。わたしたちはこれに、子どもたちの知恵や思考を持ち寄る「協同的な学び」と、それぞれの子どもたちが自らの目的を持って挑戦する「プロジェクト型の学び」を融合する必要があります。本書では、この三つの学びのあり方の融合型が、これからの教育における学びのあり方として、かなりの有効性を持ったものであることを〝論証〟しています。そしてまた、その具体的な方法、そしてこれを教育現場に浸透させていくためのアイデアを論じています。

二つ目の学校を〝開く〟という点についてですが、実は学校という閉鎖的な空間に子どもたちを〝囲い込む〟ことは、かつてはとても重要な意義を持っていました。子どもたちがその生まれ育った〝習俗〟を離れ、どんな家庭、どんな地域に生まれても、皆平等に一定以上の教育を受けることができる、ということは、義務教育の重要な本義だったのです。
ところが今、時代は大きく変わりました。というのも、今ではこの学校が、新たな閉じられた〝習俗〟になってしまっているからです。この閉鎖的な〝習俗〟が、いじめをはじめ、今多くの問題を生み出しています。

閉鎖的な学級文化・人間関係から、より〝人間関係の流動性〟に開かれた学校へ。これが本書における一つのキーワードになります。

読者の中には、「そんなこと本当に可能なの?」と思う方もいるかもしれません。しかしわたしは本書で、それはもちろん可能だし、むしろそうした流れは、すでに一〇〇年以上の理論と実践の蓄積をもとに、今大きく展開し始めているのだということを論じています。そしてまた、それがなぜこれからの「よい」教育のあり方といえるのか、論証しています。

ご興味のある方に、お手に取っていただければ幸いです。

(とまの・いっとく 日本学術振興会特別研究員)

 
本当の意味での<よい>教育とは何か?

<よい>教育をつくるためには学校の物理的な「構造」はどうなっているのがいいのか?<よい>教育を行うための教師の資質とは何か? そしてその実現のための<よい>社会とは? 本書は、義務教育を中心に、どのような教育が本当に<よい>と言えるのか、それはどのようにすれば実現できるのかを原理的に解明し、その上でその実現への筋道を具体的に示してゆくものです。

◆著者紹介
苫野一徳(とまの・いっとく)
1980年生まれ。 早稲田大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。早稲田大学教育・総合科学学術院助手などを経て、2014年度より熊本大学教育学部専任講師に就任予定。専攻は教育学・哲学。 著書に『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)が、共著書に『よい教育とは何か』(北大路書房)、『子どもと教育の未来を考える』(北樹出版)がある。 NHK「ニッポンのジレンマ」の「教育」の回に出演し、「よい」教育とは何かを論じるなど、若手の教育哲学者として注目されている。