自分を祖とする疑似科学に敢然と対抗した男・ホイーラーの「慧眼」

『量子的世界像101の新知識』
青木 薫 プロフィール

そんなホイーラーが見え隠れする本書には、当然と言うべきか、EPR論文やベルの不等式、観測問題、エヴェレット解釈などもバランスよく登場する。

じつはこうした「哲学的な」テーマがまがりなりにも大学の教科書で扱われるようになったのは、アメリカでも一九八〇年代も末のことだったようだ。

わたし自身、こうしたことをまともに習う機会もないまま、「つべこべ言わずに計算しろ」の精神を体現する教科書と言われる、シフの『量子力学』などを勉強した人間のひとりである。

わたしが自らの興味でEPR論文を読み、ベルの不等式やその検証実験について調べたときは、もう三十歳になっていた。そのときわたしは深く考えこんでしまった。量子的世界像を把握する上でこれほど重要なことを、わたしはなぜ今までろくに知らずにいたのだろうか、と。この件は、今もひとつの問題意識としてわたしの心の中に巣くっている。

今日の量子的世界像は一朝一夕でできたものではない。たとえばコペンハーゲン解釈の終焉が強く意識されるようになったのも、ようやく二十世紀の末のことなのだ。本書にはそんな歴史も踏まえられている。初心者にもプロの物理学者にも、この一冊をお手元に置いてほしいと思うのはそのためだ。

本書は、ホイーラーの精神を引き継ぐフォードがみなさんに贈る、価値ある一冊である。

(あおき・かおる 翻訳家)

 
素粒子からブラックホールまで、奇妙で驚きに満ちた量子世界をひもとく画期的入門書。この一冊で現代物理学の本質がわかる!

事象は確率に支配され、複数の状態が重ね合わさり、粒子は生成と消滅を繰り返す――古典物理学の世界観を覆す奇妙で驚きに満ちた量子世界。考え抜かれた101の項目でその全体像を見事に描き出し、量子物理学の最前線へと誘います。“初めての人には「一冊読むならぜひこれを!」と、物理学者には「項目を見たら、きっと読みたくなりますよ」と申し上げたい”(監訳者・青木薫氏による巻末解説より)


◆著者紹介
青木 薫(あおき・かおる)
1956年生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。サイモン・シン『フェルマーの最終定理』(新潮社)はじめポピュラーサイエンスの翻訳多数。著書に『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』(講談社現代新書)。2007年度日本数学会出版賞受賞。