日本には本名とは思えない珍しい苗字が数多くある。それらはどうやって生まれたのか。苗字の由来を辿れば歴史が見えてくる。
「一口」という非常に珍しい苗字を持つ人がいる。「いっこう」とも「ひとくち」とも違う読み方—。
「それは本名ですか?」
これは2月23日、皇后を伴い秩父宮ラグビー場を訪れた天皇の言葉である。天皇が関心を示されたのは、ヤマハ発動機の五郎丸歩選手。聞き慣れない苗字だったので、天皇はわざわざ本名かどうか訊ねたのだ。
もちろん、五郎丸は本名で、その苗字は現在の福岡県、旧筑前国那珂郡にルーツがある。
『名字の謎』『全国名字大辞典』などの著者であり、姓氏研究家の森岡浩氏が解説する。
「五郎丸の『丸』は九州では田んぼを意味します。これは五郎さんの田んぼ、つまり、居住区を指しています。同様に九州には一郎丸、次郎丸、三郎丸、四郎丸などの苗字が存在しますが、いずれも由来は同じです。
苗字というのは、もともと家と家を区別するためにつけられたものなので、地名をルーツとするものが多いのです」
芸能人にも稀少苗字の持ち主がいる。最近ではNHKの『あまちゃん』でブレイクした能年玲奈。現在の兵庫県姫路市にあった南畝村が発祥地で、漢字をかえたものである。
CM女王の剛力彩芽、演技派女優の貫地谷しほり、なども本名だ。
「剛力」は静岡県三島市の苗字で、山伏や修験者に従い荷物を運ぶ人に由来している。「貫地谷」は広島の安芸市発祥の伝統的な苗字で、彼女の父は広島出身である。
彼女たちは芸名をもたず、あえて珍しい苗字のままデビューすることで高い認知度を得た例といえる。
このように、日本には天皇ならずとも「それ、本名?」と言いたくなるような珍しい苗字が山とある。