松本清張氏(1902~92年)は1400本以上の作品を残し、うち150作以上がドラマ化され、30作以上が映画になった。戦後、これほど親しまれた作家はいないだろう。
1月にもテレビ朝日が『黒い福音』『小説三億円事件』をドラマ化した。ともに秀作と評価されて、視聴率的にも成功を収めたが、古くからの清張ファンの中には物足りなさを感じた人もいたのではないか。
この両作品において清張氏が題材にしたのは59年の「BOACスチュワーデス殺人事件」と68年の「三億円事件」。実話が基になっているため、今の時代にドラマ化するとなると、どうしても事件関係者の人権や団体の名誉に配慮せざるを得ない。その分、清張作品の持ち味は犠牲になる。どちらのドラマもかなり原作を改変していた。現代の地上波作品においては、やむを得ないだろう。
フィクションの清張作品も同じ。その作品群の底流には、戦争の傷跡や戦後の闇があり、紛れもなく硬質で社会派だが、ドラマ化の際には随分とソフトにアレンジされる。清張氏が原作を書いた昭和の時代と今の若年層ではマインドが随分と違うだろうから、地上波で幅広い層に見てもらうためには仕方がないのだろう。