何を仕出かすかわからない。「期待」と「不安」を周囲に振りまく。異端と王道を並行して走る稀有な経営者である。この男の眼を通して世界を眺めてみると、まったく違った景色が浮かびあがってくる。
これほどまでに判断がわかれる経営者は珍しい。
片やモノ言う株主、片や長い目で投資する中長期投資家。世界を代表する二大投資家が、孫正義社長が率いるソフトバンクの株を巡って「対立」している。
ソフトバンク株の「買い」に動いているのが、米大手ヘッジファンドのサード・ポイント。米ヤフーに投資していた際に、最高経営責任者だったスコット・トンプソン氏の学歴詐称を指摘して解任させた上、サード・ポイント側が求める取締役を送り込むなど、攻撃的な投資を仕掛けるアクティビストとして名を馳せる。
日本ではソニーの大株主に突如浮上するや、映画や音楽といったエンターテインメント事業の分社化などを提案して話題をさらったことは記憶に新しい。
運用資産は1兆円規模。ウォール街の論客として知られるサード・ポイント最高経営責任者(CEO)のダニエル・ローブ氏は、昨秋に孫氏と会合するや意気投合し、約1000億円以上を投じて発行済み株式の約1%を取得した。
一方で、ソフトバンク株の「売り」を加速させているのが米大手運用会社のキャピタル・グループである。1931年に創業した老舗で、北米、アジア、欧州に主要拠点を設けて国際分散投資を行うグローバルな「目利き」として知られる。日本株への投資も'56年から始めており、5~10年という長い目で成長が期待できる企業に投資する中長期投資家である。
キャピタル・グループがソフトバンクの大株主に躍り出たのは、ソフトバンクが株式を店頭公開して間もない'95年のこと。以来、ほぼ一貫してソフトバンク株全体の10%強を保有する安定大株主だったが、昨年夏頃から一日に数十万株、多い日には数百万株という単位で次々と売り払っていき、昨年末時点での保有率が10%を割った。
ソフトバンク株は買いか、売りかと世界中のマーケット関係者が孫氏の一挙手一投足に目を凝らす。その最中の昨年12月1日、孫氏が姿を現したのは成田ゴルフ倶楽部(千葉県成田市)だった。