『城を攻める 城を守る』著:伊東潤---城をめぐる 城を楽しむ

むろん地形や地質から、普請作事にあてられる動員力まで、様々な制約条件があるため、必ずしも思い通りに行かない。しかしそうした制約をクリアしつつ、戦略目標を達成できる城を築こうとする試行錯誤の痕跡が残っているのが、実に面白いのだ。

城めぐりの楽しみ方は様々である。
まず多いのが、とにかく地元の城や、一つの城にしか興味のない人たちである。
こうした「おらが城派」は、その城のことを客観的に見られない。それゆえ少しでも、その城の悪口を言おうものなら、すぐに気分を害すので注意が必要である。

また、登るのに大変な城、崖が崩れていて危険な城、藪だらけで何も見えない城などに、あえて行きたがる人たちがいる。彼らは仲間内で、「凄いな」と驚かれるのが、何よりもうれしいのである。いわゆる「エクストリーマー派」である。

さらに、城の名が書かれた石碑や案内板で記念撮影し、それで「一城クリア」などと言って、次の城に向かう人たちがいる。彼らは「これまで何城回ったか」だけに価値を見出す。いわゆる「達成感派」である。
こうした派閥は細胞分裂を続けており、今では把握しきれなくなっている。

むろんこうした中から、伝説や武勇伝も生まれてきた。
道に迷って山中に泊まった男、川を渡ろうとして流された男、熊と遭遇して死んだふりをした男(必ず熊が臭いを嗅いでいくことになっている)、山城見学中に遊園地まで滑落した男などである。

滑落男は、一人で東京サマーランドの上にある戸吹城に出かけ、五十メートルも滑落して足の骨を折った。突然、落ちてきた男を、家族連れが顔を引きつらせて見ていたという。すぐに駆けつけてきた係員が、「入場券は持っていますか」と問うてきたというが、金を払ったかどうかまでは聞いていない。

さらに、自殺志願者と思われて警察を呼ばれた女、合戦祭りの後、甲冑を着たまま城めぐりをしていて怨霊に間違われた男など、裏社会の闇は底知れない。

つまり城には、様々な楽しみ方があるのだ。
ただ城に行くなら、その城の歴史を知り、その城を懸命に落とそうとした男たちや、守ろうとした男たちがいたことに思いを馳せてほしい。
そのためのガイドとして、『城を攻める 城を守る』をご一読いただければ幸いである。

(いとう・じゅん 作家)

 
◆内容紹介
本書を手に取った方々は、一過性の趣味として城めぐりをしているわけではないはずだ。おそらく城好きが高じて、その歴史的背景までも知りたいと思っているのではないだろうか。本書は、そうした方々を対象としている。「日本百名城」ブームを一過性のものとして終わらせないためにも、その城で過去にあった攻防戦に目を向けてもらい、その城の経てきた歴史に興味を持っていただく必要がある。本書は、そうしたことを念頭に置いて書いた「戦う城本」である。

◆著者紹介
伊東潤(いとう・じゅん)
960年横浜市生まれ。早稲田大学卒。『この時代小説がすごい! 2014年版』(宝島社)単行本・作家部門ランキング1位。外資系企業に長らく勤務後、文筆業に転じ、歴史小説や歴史に材を取った作品を発表している。『巨鯨の海』(光文社)で山田風太郎賞を、『国を蹴った男』(講談社)で吉川英治文学新人賞を、『黒南風の海 加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』(PHP研究所)で「本屋が選ぶ時代小説大賞」を、『義烈千秋 天狗党西へ』(新潮社)で歴史時代作家クラブ賞(作品賞)を受賞。『城を噛ませた男』(光文社)と『国を蹴った男』、『巨鯨の海』、『王になろうとした男』(文藝春秋)で4度の直木賞候補となる。その他の主な著作に『武田家滅亡』(角川書店)、『黎明に起つ』(NHK出版)、『峠越え』(講談社)等がある。

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