フランスのある新聞が「政治的、理論的ブルドーザー」と評したトマ・ピケティの新刊書『21世紀の資本論』は、貧富の格差が開くのは、自由市場資本主義の避けられない結果だとして、左派、右派両方の正説に真っ向から挑んでいる。
それだけでなく、パリ・スクール・オブ・エコノミクス教授のピケティは、資本主義に内在するダイナミクス自体が、民主主義社会を脅かす強大な力を駆り立てると主張する。
ピケティによると、資本主義は、近代国家および近代化しつつある国家の両方に、ジレンマを突きつけることになる。つまり起業家たちは、労働力しか持っていない者に対し、どんどん優勢になってゆくのだ。新興国は短期的にはこの論理を打ち破ることができるが、長期的には、「没収なみの課税率」が導入されない限り、「報酬を決める者が自分の報酬を設定するのだから、もう際限がない」とピケティは見ている。
ピケティの本は4カ月前にフランス語で出版され、3月に英語版が出る予定だ。この本の中でピケティは、従来型の支出、課税および規制に関するリベラルな政府の政策では、格差の緩和を実現できないとしている。本のほかに、彼は一連の講義を行い、それをウェブ掲載し、自分の説をフランス語と英語で概説している。
保守的な読者はピケティの本を読んで、政府の介入による歪曲から解き放たれた自由市場が、「経済発展の成果をすべての人に分配する。これが、過去2世紀にわたり労働者の立場が大きく改善した秘密だ」という有名なミルトン・フリードマンの言葉に異議を唱えるものだと理解するだろう。
しかし、そうではない。ピケティは、格差はまさに望ましい形で機能している市場を反映して拡大するものだと言っているのだ。これは、市場が不完全であることとは何の関係もない。資本市場が完全であればあるほど、資本収益率は経済の成長率より高くなる。そして、資本収益率が高いほど、格差も大きくなるというわけだ。
すでに議論を巻き起こしているジャーナル・オブ・エコノミック・リテラチャー誌の6月号では、世界銀行調査部門のエコノミストであるブランコ・ミラノヴィッチが20ページにわたる書評で以下のように言明している。
「私は、トマ・ピケティの新刊書『21世紀の資本論』を、過去数十年に書かれた中でもっとも優れた経済書のひとつだと言うことを躊躇する。そうではないと考えているわけではないが、好意的な書評があまりにも多いこと、さらに、今を生きている人は往々にして最終的に何が大きな影響を与えるかを適切に判断できないものだということから、私は慎重なのだ。この2つの注意点を踏まえたうえで、今、経済の考え方を大きく変えるような本の1つが現れたと私は言いたい」。