特別寄稿 『ブラック精神科医に気をつけろ!』
第1回「うつの痛みと過剰投薬の実態」

読売新聞東京本社 医療部記者 佐藤光展
佐藤 光展 プロフィール

タクヤさんの状態は退院後も好転せず、体全体が硬直したように動かなくなる場面が増えた。テレビを見て度を超えた大笑い(笑う時は「ハハハハ」と声が出る)をしたと思ったら、急に落ち込んで無反応になるなど、感情の波がますます激しくなった。姉が一時帰国した時は、姉の言う通りにトイレに行ったり手を洗ったりしたが、いなくなるとまた元に戻った。

2012年夏、大学病院に再入院した。主治医とともにタクヤさんを診ることになった精神科教授は、治療に疑問を持った母親や家族会のメンバーから、診断の見直しと減薬の要望を何度も訴えられるうちに治療方針を改めた。診察に同席した私の質問にこう答えた。

「統合失調症なのか発達障害なのか判断が難しいケースですが、薬は可能な限り少なくしたい。減薬が順調に進み、状態が安定すれば言葉が戻る可能性はある」

この病院では、抗精神病薬のエビリファイとリスパダール、抗うつ薬のパキシルなどを同時に使ってきた。取材直後の11月から減薬を進め、12月にはリスパダールを中止した。母親は「体の硬直がとれ、作り笑顔ではない自然な笑顔が戻って表情が豊かになりました」と喜ぶ。

タクヤさんは2013年7月末に退院した。これまでタクヤさんの世話を母親に任せきりだった父親は、自宅に戻ったタクヤさんに気軽に話しかけるようになるなど態度を変えた。帰宅直後は両親の顔色をうかがう様子だったタクヤさんの表情は、次第に柔らかくなった。「これからも薬を可能な限り減らしていき、いつかまた言葉を取り戻して欲しい」と母親は願っている。

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だが、タクヤさんのようなケースでは、減薬を進めると常同行為などのもともとの症状が再び強く現れる恐れがある。多剤大量の薬で症状を無理やり抑え込んでいただけで、症状の原因が取り除かれたわけではないからだ。しかし、減薬で現れた症状を病気の「再燃」や「悪化」ととらえ、再び抗精神病薬などを増やしてしまっては、誤診の悪循環から抜け出すことができない。

タクヤさんにとっての一番の薬は、家族関係など生活環境の再構築だろう。今後の減薬で現れる可能性がある一時的な症状悪化に対応するため、信頼できる精神科医のサポートも欠かせない。そうしたきめ細かな在宅支援ができる公的サービスは整備されていないが、タクヤさんの場合、幸いにも神奈川県の誤診被害者の家族たちが支援に乗り出した。母親の悩みを聞いたり、減薬の経験が豊富な精神科医の助言を求めたりしていくという。支援を始めた精神科医は、タクヤさんをこうみる。「言葉が出ないのは、話せば話すほどひどい治療を受けさせられてしまったため。彼は、話さないという常同行為を続けているのだろう」。