特別寄稿 『ブラック精神科医に気をつけろ!』
第1回「うつの痛みと過剰投薬の実態」

読売新聞東京本社 医療部記者 佐藤光展
佐藤 光展 プロフィール

2週間後。2度目の面会時には拘束は解かれていた。だが代わりに、鎮静目的で大量の薬が投与されていた。

タクヤさんの首は激しく前傾し、あごが鎖骨のあたりについていた。両腕が震え、何かを持とうとしてもつかめない。両脇を支えないと立てず、すり足で歩幅が小さい小刻み歩行になっていた。

よだれがダラダラと流れ落ちる口を必死に動かし、同じ言葉を繰り返した。

「死にたい」「死にたい」「死にたい」「死にたい」「死にたい」

大量の薬物投与で症状がさらに悪化

 入院は1年に及んだ。この間、多感な少年は多剤大量投薬を受け続けた。「僕には薬は効かない。薬じゃ治らないんだ」。タクヤさんが病室でいくら叫んでも、主治医は聞き入れなかった。両親もまた、息子よりも精神医療を信じて、必死の叫びを聞き流した。母親は「おかしいのは私たちのほうだった。後悔してもしきれない」と悔やむ。

 クロルプロマジン、レボメプロマジン、ルーラン、セロクエル、ジプレキサ、リスパダールなどの抗精神病薬が、一度に複数使われた。この中には、タクヤさんが陥った常同行為などの強迫症状をさらに強める恐れが指摘されているものもある。発達障害に詳しい精神科クリニックの医師は指摘する。

「発達障害の可能性がある人に強迫症状が出た場合、少量のオーラップ〔神経系用剤〕か、少量のエビリファイ〔抗精神病薬〕などで様子をみるのが今では一般的。同時に家庭や学校のストレス因子を突き止め、生活環境の改善をはかる。しかし発達障害が眼中にない精神科医は、すぐに統合失調症と診断するので、リスパダールやジプレキサなどを最初から出して、かえって強迫症状を強めてしまう。そして薬がどんどん増えていく」

結局、タクヤさんは主治医にさじを投げられた。「薬はすべて使ってみましたが効果がない。これ以上は無理です。残念ですが交通事故にあったようなものだと思ってください」

さらに主治医はタクヤさんの退院直前、こう言って姿を消した。「統合失調症ではないかもしれない。強迫性障害かもしれない。自信がなくなったのでアメリカかどこかで勉強し直します」

医師は勉強をやり直すことで誤診の罪を償った気になるのかもしれないが、症状悪化のまま放置された患者はどうなるのか。