特別寄稿 『ブラック精神科医に気をつけろ!』
第1回「うつの痛みと過剰投薬の実態」

読売新聞東京本社 医療部記者 佐藤光展
佐藤 光展 プロフィール

高校受験を控えた三者面談。担任教諭は「入れる高校がない。宿題がずっと滞っているから内申点が足りない」と告げた。その晩、タクヤさんは自宅のイスに座ったまま長時間動かなかった。以後も中学は休まず通ったが、帰宅するとイスに座りっぱなしになったり、一点を見詰めたまま立ち続けたりするようになった。食事をほとんど摂らなくなり、1ヵ月で体重が15㎏減った。小児科に3週間入院し、点滴で栄養を補いながら少しずつ食べる練習をした。

担任の予想に反して公立高校に合格できたが、通学したのは10日間だけだった。「つらいからやめる」と自ら高校に伝え、退学した。

常同行為の悪化で入院

 手を何時間も洗い続ける、深夜に泣きながら家中を歩き回る、服を脱いだり着たりを繰り返す、布団に入ったり出たりを繰り返す、シャワーを何時間も浴び続ける……。決まった動作を繰り返す常同行為が顕著になった。

常同行為は、精神科では統合失調症の一症状などとして扱われてきたが、自閉症の人にも現れやすく、知的障害のない自閉症スペクトラムの人が強いストレスにさらされた時も、同様の状態に陥ることが知られるようになった。だが発達障害の知識を持つ精神科医は少なく、子どもの常同行為を「〔初期や前駆段階の〕統合失調症」と決めつけ、対応を誤るケースが後を絶たない。

タクヤさんの常同行為は、母親たちが体を押さえても止まらなかった。一晩中、体力が尽きるまで家の中を歩き続けたり、立ち続けたりした。心配した母親は、15歳のタクヤさんを精神科病院に連れて行った。即入院になった。

被害妄想や幻聴は現れていなかったが、主治医は「幻聴は間違いなくある。幻聴から脅かされていて言えないんだ」と、ご都合主義的な決めつけをし、「統合失調症」と診断した。さらに主治医は「肉親に会うと帰りたがるので、しばらく面会に来ないでください」と母親に伝えた。

1ヵ月後、2分間だけ面会が許された。タクヤさんは保護室で全身を拘束され、導尿(カテーテルを使って膀胱にたまった尿を外に出す処置)されてベッドに横たわっていた。母親の顔を見るなり泣き叫んだ。

「もう繰り返し行動はしないから!」「お願いだから退院させて!」

「これは虐待ではないか」。母親がそう感じたのも無理はない。タクヤさんは自分や他人を傷つけたわけではなく、同じ行動を家で繰り返していただけなのだ。主治医は常同行為が起こった背景には無関心で、ただ動きを強制的に止めるために体の自由を奪い、導尿まで行った。心を扱う精神科医でありながら、思春期の複雑な心には目を向けず、ズタズタに切り裂いたのだ。

「今すぐ退院させたい」。母親は焦ったが、自宅に連れ帰っても、また常同行為を繰り返す可能性が高い息子にきちんと対応できる自信はなかった。ほかに相談するあてもなく、結局は病院を信じるしかなかった。