特別寄稿 『ブラック精神科医に気をつけろ!』第1回「うつの痛みと過剰投薬の実態」

読売新聞東京本社 医療部記者 佐藤光展
佐藤 光展 プロフィール
ノンフィクション書評サイト「HONZ」で、成毛眞氏が「2013年 HONZ 今年の1冊」に選んだ⇒本を購入する(AMAZON)

それは勘弁願いたい。早いうちに代休を取り、その日だけでも仕事のことは忘れ、たくさん寝て、起きたら海辺をジョギングすることにしよう。軽症うつ病には偽薬並みの効果しかない抗うつ薬よりも、よっぽど効くに違いない。もし肩の痛みが強まり、どうにもならなくなったとしても、精神科ではなく痛み治療の専門家に相談するだろう。

疾患啓発に走る製薬会社

処方薬の一般向け広告ができない製薬会社は、疾患啓発に力を入れる。薬の対象となる病気の患者が増えれば、結果的に自社の薬の売り上げが伸びるためだ。病気の可能性に気付き、早期に医療機関を受診することが患者の利益につながるのならばよいが、診断力すら心もとない精神科の世界では、早期発見・早期治療が仇となるケースが多い。

「うつの痛み」キャンペーンの真の目的も、サインバルタの売り上げを伸ばすことにある。サインバルタは「うつ病・うつ状態」に加え、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」に用いることができる。痛み治療に使う場合は、原則的に糖尿病患者にしか処方できないが、痛みに悩む患者が「うつ状態」のような気分を訴えてくれたら、この薬を堂々と処方できるのだ。こうした処方で症状が改善する人もいるだろうが、体の痛みで元気がでない人までも、うつ病患者にしかねない啓発方法は不適切と言わざるを得ない。

製薬会社は熾烈な競争社会を生きる営利企業なので、様々な機会を通じて医師を取り込み、自社製品の販売促進を目指す。拙著『精神医療ダークサイド』(講談社現代新書)でも、そうした手法を詳しく解説している。

以下、紹介するのは、薬漬け治療によって人生を台無しにされた男性の記録である。長文になるが、現在の精神医療の実態がわかるエピソードなので紹介したい。
 

薬漬けと電気ショックの末に失った言葉 

2012年10月、私は神奈川県の大学病院で、精神科病棟に入院中のタクヤさん(仮名)と対面した。当時26歳。言葉を話せない。先天的な障害ではなく、深刻な頭部外傷を負ったわけでもない。以前は、家族や友人とも何の不自由もなく話していた。精神科で「統合失調症」と診断され、多剤大量投薬と電気ショック23回を受けるまでは。

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