『津波と原発』著:佐野眞一 解説:菅原文太
胸に刻むのだ、永遠に――東日本大震災ルポの決定版!

こんなふうに国を司る者たちの正体が見えた非常時の今は、“津波てんでんこ”の言い伝えの通り、国の富を思うままに遣い、金と権力の富栄養で赤潮状態の統治者からテンデンコに逃げ出して、自分たちの生活の道を考えたほうが良さそうだ。この国は、一致団結まとまってご奉公する義理などない国になってしまったのだから。

おかまバーのママ、キン子のようにアタマを使って自力自尊で生きるか、ホウレンソウ農家の林さんのように慎ましくひっそりと、しかし靱(つよ)く生きるか、浪江の農場長の吉沢さんのように雄弁と哲学で世に主張して生きるか。いずれにしろ、「俺たちには自力で生きることが暗黙に課せられている」ということが、この本を読んでうっすらと見えてきた。

大都会で電力をたっぷり使いながら豊かに生きている人たち(そんな結構な身分の人たちが多いとも思えないが)は、福島第一原発事故の被害者が「結局、北朝鮮と一緒だったんだ。いい生活ができるからって、原発を受け入れたら、こんなひどいことになっちゃった。いま、百万円やるからって言われても北朝鮮に行くヤツなんか一人もいねえよ」という、この言葉をどう聞くだろうか。もしかしたらこの国は、見かけはともかく、実態は北朝鮮よりヒドいことになっていやしないかと、不安と疑いが頭をもたげてくる。「よーく考えようじゃありませんか」と佐野さんのこの本は問いかけている、と思えてくる。

第二次大戦敗戦までのかつての軍国少年も、80歳を過ぎた。俺の人生が戦争に始まり、戦争に終わることがないように、畏友・佐野眞一さんには弱きを助け、強きをくじくペンをますます振るってもらいたいと願っている。

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『津波と原発』
著者:佐野眞一
講談社文庫 / 定価640円(税別)
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被災者の肉声を縦軸に、現地の歴史的背景を横軸に紡ぎ、各メディアから高い評価を得た東日本大震災ルポルタージュの傑作を文庫化。あの未曾有の大災害から一週間後に津波に襲われた被災地各所を、一ヵ月半後には福島第一原発周辺の立ち入り禁止区域内を緊急取材した筆者が見たものは――。解説・菅原文太

◆著者紹介
佐野眞一(さの・しんいち)
1947年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者・業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。97年、民俗学者宮本常市と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦 乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に『性の王国』『遠い「山びこ」――無着成恭と教え子たちの四十年』『巨怪伝――正力松太郎と影武者たちの一世紀』『カリスマ――中内功とダイエーの「戦後」』『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』『小泉純一郎――血脈の王国』『響きと怒り――事件の風景・事故の死角』『阿片王――満州の霧と闇』ほか多数。