『司法権力の内幕』-絶望的な、あまりに絶望的な実態

著者は裁判官をアイヒマンの官僚主義と重ねる。アドルフ・アイヒマンはナチスのユダヤ人虐殺の実行責任者で戦後逃亡していたものの、捕まり国際裁判にかけられた。極悪人とつるし上げられる中、彼は「私の罪は従順だったことだ」という陳述を行ったことは有名だ。総統の命令があったからやっただけであり、もし私が拒否していても、他の誰かがやったであろうと。権力を持つ大組織で合理化が進めば主体性は奪われ、構成員は代替可能な存在になる。思考停止の状態で形式的に事案は処理されていく。それは日本の裁判官も同じである。特定の裁判官が悪いわけではない。問題はむしろ根深い。

こうした状況に風穴をあける可能性があるのは裁判員制度ではと著者は期待を寄せる。ただ、市民は司法ゲリラになって「裁判官のやることなすこと全てに反対くらいでちょうどよい」と著者が声高に叫べば叫ぶほど、司法権力の問題の根深さを痛感してならない。

『司法権力の内幕』
作者:森 炎
出版社:筑摩書房

内容紹介
いわゆる法曹三者において、裁判官はとりわけ“奇異”な存在である。「司法囚人」とたとえられるような処遇と、強大な権限。裁判所や判事への批判は、その両極端な面を反映するものが多い。では、実際の裁判所はどのような組織か。裁判官たちは、何を考えて裁いているか。「法と証拠」ではなく、組織としての圧力で判決が決まることはあるのか。死刑判決のプレッシャーはいかばかりか―。本書は、著者の裁判官時代のエピソードを交えながら、日本の司法制度の瑕疵と司法組織の歪みや問題を整理。さらに、有名な裁判の舞台裏や、驚きの判決理由を解説する。 

『ノンフィクションはこれを読め! 2013』HONZが選んだ110冊
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社

内容紹介
『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』『ランドセル俳人の五・七・五』等、書評サイトHONZのお薦めレビューを集大成。

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