『零戦 搭乗員たちが見つめた太平洋戦争』 群青色の青春

ただ、本書の後半、甲飛十期生の話になると様子が変わってくる。彼らは戦中に飛行機乗りとしての教育を受け、おりしも搭乗員不足が懸念される中、十分な飛行訓練を積むことなく、前線に投入される。

その頃には、アメリカ軍が零戦の性能を超える戦闘機、グラマンF6Fヘルキャットなどを戦場に投入しており、操縦技術の未熟さに加え、戦闘機の性能でも劣ることになる甲飛十期生の若者たちは一方的な犠牲を強いられることになる。

グラマンF6Fヘルキャット(Wikipediaより)

また彼らは特攻隊の中核を担うという過酷な運命がまっていた。ちなみに甲飛十期生、1099人のうち、戦死したものは777人、七割の者が戦死している。さらにあの戦争で戦死した戦闘機搭乗員は特攻も含め、わかっているだけで4330名にものぼる。いずれも難関を潜りぬけた、知力、体力ともに平均を大きく上まわる、本来ならば前途有望たる若者たちであったであろう。

時間というものは無慈悲なまでに流れゆく。かつて、大空を駆って戦い、戦場を生き延びた若き戦闘機乗りたちも今は次々に鬼籍に入っている。あの戦争は急速に血の通わぬ歴史の記述へと変わりゆく。これほどの大勢の零戦乗りに大規模なインタビューを行えるのは最後かもしれないのだ。あの戦争を等身大に自分の事として語れる人たちの話に是非とも耳を傾けて欲しい。それは、大空の戦場を、命を賭して駆け巡った若者たちの青春の物語であり、誇りと人命と技量と技術とがせめぎ合う葛藤に満ちた男たちの物語である。

『零戦 搭乗員たちが見つめた太平洋戦争』
作者:神立 尚紀
出版社:講談社

内容紹介
東はハワイから西はセイロン、北はアラスカから、南はオーストラリア。この広大な戦域の空に、あまりに強く、同時にあまりに脆く、そしてあまりに美しい戦闘機を駆って戦った若者たち。長い間、黙して語らなかった彼らが最後に伝えたかったこととは!

『ノンフィクションはこれを読め! 2013』HONZが選んだ110冊
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社

内容紹介
『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』『ランドセル俳人の五・七・五』等、書評サイトHONZのお薦めレビューを集大成。