第65回 安藤百福(その一)世界を席巻した即席カップ麺の祖。彼の登場は、文明史的事件だった

福田 和也

メリヤスの取引に自信を得た百福は、当時、日本一のメリヤス業者と謳われていた老舗『丸松』の門を叩いた。
けれども、商談は上首尾にいかなかった。
百福は、特注品を専門にしているので、既製品は不要なのである。その事を貿易部長に説明したが、どうしても、話が通じない。

業を煮やして、「生産の現場責任者の方を紹介していただけないでしょうか」と、失礼を承知で頼んだ。
部長は、不機嫌な貌をつくったが、責任者を呼んでくれた。

飛行機を操縦して富士山の上を飛んだ

現れたのは、五十代の藤村捨治良工場長。
すぐに意気投合し、年齢の差にかかわりなく、話をして尽きる事がなかったという。
しまいには、藤村家で、食事をさせて貰うほど、懇意になった。

藤村には、面白い経験をたくさんさせてもらったという。

「飛行機で東京まで行ってみないか」

当時は、民間航空機の草創期である。

大阪の八尾空港に行くと、翼が布張りの単葉機がある。
翼を叩くと、ボンボンという不景気な音がする。
これで、東京まで飛べるのか・・・・・・。
不安だったが、いざ離陸すると快適だった。

富士山の上を飛んだ。
パイロットが、云う。

「操縦してみますか?」

自動車も運転したことがない百福が、操縦桿を握った。