【第1回】はこちらをご覧ください。
白河: ただ、多様性を受け入れる価値観に共感できる人が残るといっても、評価したり、お給料も変えたりしなきゃいけないし、働き方も人によってさまざまだと、全員に残業させるわけじゃないですよね。仕事の割り振りとか、進捗状況の把握とか、マネジメント面ではやることが増えると思うんですけれども、その辺りはどうなんでしょう? マネジメントの教育をされていますか?
青野: 制度を作った当初は、毎月研修をしていましたね。2年間くらい。マネジメント層だけではなくて、全層に対して。3年目、4年目、中堅・・・毎月毎月やっていました。そこで問題解決メソッドや多様性を受け入れる考え方などが根付き、この会社が何を目指しているのか、何をやりたいのかが浸透したんだと思います。
白河: 具合的にどうやって浸透させていったんですか?
青野: 会社の商品をグループウェアに絞って、つまり「世界のチームワークを向上させる」「世界一のグループウェア会社にする」というところを目指しました。人事制度も含めてすべての制度はこの目的のためにあるということを言い続けています。「世界一使われるグループウェアメーカーになりますよ」「それがこれからやることですよ」と。
最初はよく分かってもらえなくて「え?」「何が言いたいんですか?」といった感じになってしまいますが、繰り返しているうちに、みんな納得感が出てきて、「あ、そうか」「じゃあ僕はそのために何ができるだろう」といった発想に変わってきています。
会社がどこを目指しているのか、何をしたいのかは、数字では表せるわけじゃないですか。「来年の売上目標はいくら」というように。でも、一現場の人からするとワクワクもしないし、「それをやったところで、社長の給与が上がるだけでしょ」といった感じになってしまう。
僕も昔それをやっちゃっていたんですよ。2005年に社長になったときに、売上を倍にしようみたいなことを掲げて、実体感のないまま2年間。大失敗しました。
白河: それはやっぱり失敗だったと思われるわけですか?
青野: 失敗ですね。自分の思っていたような結果は全く出せなかったんです。それで、そこからみんなと相談しながら、みんなが燃えられる目標を作るようにしました。
ひとつの明確な目標を作ったら、それに合わない人はどんどんやめていくんですけれど、でも、その間にどんどん一体感が増してくる。逆に、目標に共感する人はみんな残っていて、「ようやく青野さんがちゃんとした目標を作ってくれた」と言ってくれたんです(笑)。
白河: 売上じゃなくて、みんなが共感できる、ワクワクする目標を作ってくれたと。
青野: そうは言っても、やっぱり全員を巻き込むことは無理なんです。だから、「いいグループウェアを作ろう、それを広げよう」ということに絞りました。
白河: 船に乗る人を選ぶということですね。今は非常に良い状態ですか?
青野: 昔よりはいいですね。でも、やはりマイクロソフトを見てしまったので、まだまだだと思っています。すごいんですよ、あの会社は。
白河: どうすごいんですか?
青野: 作っているものもそうですが、集まっている人もすごい。本当に世界の天才がいっぱい集まっているんですよ。僕なんかもう、入社もできないくらいのレベルです。
Googleもそうですけど、良いものを作って、それを世界中に広めるための仕組みがあって、そこで社員が楽しく働き、間違いを起こさない仕組みがあって・・・。そういったものを見ると、サイボウズは足元にも及ばないですよ。
白河: やっぱり働き方の仕組みも違いますか?
青野: シアトルのマイクロソフトへ行ったときに、金曜日だったんですが、ベビーカーを押している男女がいたんです。
「どこの人が入ってきているんですか?」(僕)「いや社員ですよ」(現地社員)「どう見ても働いてないですよ」(僕)「だって金曜の午後だもの」(現地社員)「えーっ!」(僕)
ということがありました。
白河: それはいつ頃の話ですか?
青野: 2年前かな。驚きました。「金曜の午後ですから」と普通に言われたんです。これはすごいと(笑)。
白河: なるほど。でも、もう2年前ですよね。サイボウズだって、日本の普通の会社の人からすれば「ひえ~!」っていうようなことがいっぱいあると思うんですけれど。
青野: いやいや。日本だから偉そうに「育児休暇とりました」とか言っていられますけれど、スウェーデンなんかに行ったら「はぁ? 何を自慢しているんですか?」となりますよ。