『イーロン・マスクの野望』桁外れの野心家 未来を変える天才経営者

ここでも宇宙ロケット事業と同様、数々の横槍にあいながらも、着実と実績を残していく。会社が危機的状況には「すべての投資家が見捨てても、私がテスラ社を支える」と私財を投じて会社を守り、New York Timesの電気自動車バッシング記事に対しては「事実と違う!」と記事の矛盾点を一つ一つ指摘し最終的にはNew York Timesに白旗コメントを掲載させてまでいる。

トヨタやパナソニック等の出資も受け、創業7年目の2010年に米自動車メーカーとしては1956年のフォード以来半世紀振りとなる新規株式上場に成功。現在、連続走行距離が約500km(東京—京都間は無充電で走行可能)と最も性能の高い電気自動車「モデルS」を全世界で販売中である。

スペースX社とテスラ社の経営だけでも尋常でなく大変なのに、あろうことかイーロンは更に太陽光発電事業の経営にまでも手を出す。彼の従兄弟が2006年に創業した太陽光発電企業「ソーラーシティー」に出資し、会長に就任しているのだ。同社は2012年に上場を果たし、現在、全米が熱い視線を送るクリーンエネルギーベンチャーとして期待されている。

イーロンは、2014年までに北米の人口の80%の都市をカバーする電気自動車用高速充電ステーションを設置する計画を公表し、充電ステーションの電力源はソーラーシティーなどに任せ太陽光発電にしようとしている。実現すれば化石燃料のいらない自動車インフラシステムの誕生である。一つの国家でさえ手を焼く大事業を民間人一人でやりきろうとする彼の壮大なスケールの事業観には、ただただ恐れ入る。今回もあらゆる方面から「不可能だ」と言われているが、彼は着実に実績を残すつもりだろう。

宇宙ロケットと電気自動車と太陽光発電。一見、バラバラの先端産業をイーロンは取り組んでいるように思えるが、彼の中ではこれら三つの事業は一本筋が通っている。「太陽光発電とともに電気自動車を普及させることは、この地球を石油依存から脱却させ、気候変動に対処し、人類が火星への移住を実現する時間を稼ぎだすことになる」、そう電気自動車事業と太陽光発電事業は、火星へ人類を移住させるという途方もなく大きな計画の前ステップだったのである。

一般人には壮大すぎて理解しがたいゴールを掲げ、それを着実に実現させていくイーロン・マスク。彼が人類の歴史を変えることになるのか、それともただの野望で終わるのか、幸いにも同世代に生きる私たちは、彼の無謀な挑戦をこの目に焼き付けることができる。

本書は、映画の主人公のような彼の半生を分かりやすく紹介している。本の虫だった少年時代、宇宙ロケットの打ち上げに何回失敗してもへこたれない彼の楽観主義、ハイテク技術の技術優位性を守るためにあえて特許申請しないという彼の天の邪鬼戦略、日本のモノ作り現場のような地道な努力の積み重ね、彼のお金の使い方など、どれをとっても面白いエピソード・切り口であり、未曾有のチャレンジに挑み続ける経営者の評伝としては日本で一番である。イーロン・マスクを知らない人も少し知っていた人も十分に楽しめる内容だ。