林千晶×横田響子×小林麻実×堀潤【前編】 「教育的・情報的な『常識』があるから、女性のエリートが育たない」

小林: そうですね。「デザイン」というところに、自分が主体的に変えていく意志の力を感じます。日本では今まで終身雇用が普通だったので、人事部の言うとおり、あちこちの部署に行きながら、どんな仕事でもやる人がエライような感じでした。が、今では自分の趣味や好み、やりたいこと、仕事以外でどういう生活をしたいかを自分で考えて、それを生かしながら自分らしく仕事をできるようになってきたのかな、という気がします。

ジョブとかCompensation(コンペンセーション)というと、「ガマンしたことに対して報酬をもらう」という気がするじゃないですか。それに比べると、やっぱりワークのほうは、自分のやりたいことをやって、人にも認められて、なにかが返ってくるという感じがすごくする。林さんのおっしゃるとおり、言葉だけで人の気持ちはずいぶん違いますよね。

「小さく、地道に」という常識を変えられるか

横田: 私が新卒で入ったリクルートという会社は、若手にがんばらせてくれる会社で、それこそきつい働き方をしたんですけど、おかげさまで今があるなと思うんです。在籍期間は6年ですけど、他の会社の十何年分は働いているんじゃないかな。それは長時間労働という意味も、1~2年目でも仕事を任されるやりがいといい。すごく感謝してています。

一方、会社を辞めて、自分で経営をしてみて、クリエイティブなこと、先のことを考えることは、長時間働いていたら全然頭が回らないし、30歳をすぎてから徹夜しようもんなら1週間使い物にならないです。そういう意味では生産性を大事にして無駄に長時間働かず、「いかにしてクリエイティブなワークをデザインするか」についてはすごく意識してやっていますね。 

堀: 労働の話をしていると、エリート論からは逃れられないかもしれませんね。けっこうコメントで「それはエリートだよ」というのが入ってくるんですよ。

こないだ、現役官僚の方が原発に関わる問題について、フィクションという形でペンネームを使って、告白小説を書いたんです。電力会社、政治家、メディアがまさに今進行中の原発再稼働の問題、輸出の問題について、官僚の立場から、フィクションとして告発していくんです。いわゆるエリート、霞ヶ関の官僚です。その方に「ご自身はエリートと思われますか?」とたずねると、私は胸をはってエリートだと思うと答えました。

なぜかといえば、自分の役割がそうだからだ、自分たちが実行していって社会を変えることができるのはエリートだと言うんです。それはエリートだからエライとかいう話ではなくって、役割を実行できる立場にいるから自分はエリートだと思うと言っていました。世の中には魂を売ったエリートがたくさんいる、自分は我が身を危険にさらしても、エリートとして実行する責任を果たしたい、と言っていたんです。

それはけっこう共感する部分もありました。討論番組だと、出ている人は選ばれた人たちだから、あなたとしては出ていく必要はないってよく言われるんです。考える余裕があって、しかも変えられる人たちがアクションを起こしていく、その上でみんなに、立ちゆかなくなっている人たちに徐々に広げていけばいいじゃないかと言う話をしていました。

コメントでエリートの話が入ってきたのでエリートの話をしましたが、「女がエリートであるためには女を捨てないと」というコメントが入ってきました。これはどうですか?

小林: それはないだろう、という気がしますけれども(笑)。女性らしさを捨てて、男性らしくなれば仕事に役立つということが、本当にあるのかな? という気がします。

もちろん、男女の違いはものすごくあると思います。私はアメリカで軍需産業に務めていたのですが、そこでは男の人ってすごく組織が好きなんだなと違いを感じましたね(笑)。

堀: そうですね。LINEより、会社の人事情報を知るほうが早い(笑)。

小林: そういうことを気にするのが男性ですよね。ビジネスの話の際でも、「俺は特攻隊だ、お前は守備に回れ」とか立場の話を言っていて。上司とか、部下とか、同僚。のような組織内の地位を気にするのは男の人だということを強く感じました。 

もちろん例外もあると思いますけれども、組織というものがすごく好きな男性は多いでしょう。これは国内外問わずですね。

それに比べると、女性はたとえ組織の中で降格されてもあまり気にしないとか、お給料がちょっと下がっても好きなことをやれる方が楽しいとか、ありますよね。どちらかというと組織の中の自分の位置づけよりは、違うところでなにかを見出す人が多いような気がします。

そのような違いはありますが、時代は変わったと思っているんです。今までは会社は固い組織だったから、そこで自分の位置や上下関係を決めるのってすごく大事だったかもしれません。けれども、そういうシステムがみんなダメになっちゃってるわけじゃないですか。だから、あまり役職とかは気にせずフラットに自分のやりたいことをやりましょう、とある意味では女性的になっていくんじゃないかな。

堀: 以前は終身雇用制をしいた会社が雇用として大勢を占めていた。働く人の生き方はそこから考えなくちゃいけなかったんだけれども、今は本当にそういう時代じゃなくなってきた。

林: 小林さんがおっしゃっていたように、男性は動物的に組織が好きという点はあるのかもしれないけれども、教育の面も大きいんじゃないかなと思うんです。「女性起業家のために、1兆円の企業を作ろう」というようなセミナーとか、文脈はあまりないですよね。

女性は地道になにかをやる。それはもちろん子供を産んで育てるということはあるけど、教育的に情報的に「常識」というものが、「女性は地道、生活もある、仕事はその中の一個」になっちゃうから、逆にデメリットとしてエリートが育たない。仕事で私は出世したいじゃなくて、成果を出したい。

社会を変えたいから、そのために決裁する。そのための能力を持っている人はいっぱいいるはずなんだけど、社会的な情報として「小さく、地道に」ってあるんです。そこをどうやったら変えられるかなと思います。

後編につづく

横田響子(よこた・きょうこ)
1976年生。お茶の水女子大学卒業後、'99年株式会社リクルート入社。6年間人材部門を中心に営業・新規事業立上げ・事業企画を経験後退社。2006年株式会社コラボラボ設立。女性社長を紹介する「女性社長.net」、女性社長300名が集結するイベント「J300」、女性社長の逸品を販売する 「Wooooomen's!(ウィーミンズ)」を企画運営。大手企業を中心とした新規事業の立ち上げ、販促支援など多数プロジェクト運営。女性キャリアデザイン協会理事、内閣府・男女共同参画連携会議議員を務める。2011年9月APEC WES(Women and Economy Summit)にてイノベーターとして表彰。NHK「クローズアップ現代」「サキドリッ↑」、「朝まで生テレビ」など各メディアに出演。東京大学・お茶の水女子大学、各自治体での講演実績多数。著書『女性社長が日本を救う!』(マガジンハウス)
林千晶(はやし・ちあき)
ロフトワークの共同創業者、代表取締役。2000年に創業したロフトワークでは、16000人が登録するクリエイターネットワークを核に、Webサービス開発、コンテンツ企画、映像、広告プロモーションなど信頼性の高いクリエイティブサービスを提供。学びのコミュニティ「OpenCU」、デジタルものづくりカフェ「FabCafe」などの事業も展開している。またクリエイターとのマスコラボレーションの基盤として、いち早くプロジェクトマネジメント(PMBOK)の知識体系を日本のクリエイティブ業界に導入。2008年『Webプロジェクトマネジメント標準』を執筆。現在は、MITメディアラボ所長補佐も務める。1971年生、アラブ首長国育ち。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒業。1994年に花王に入社。マーケティング部門に所属し、日用品・化粧品の商品開発、広告プロモーション、販売計画まで幅広く担当。1997年に退社し米国ボストン大学大学院に留学。大学院卒業後は共同通信NY支局に勤務、経済担当として米国IT企業や起業家とのネットワークを構築。2000年に帰国し、ロフトワークを起業。
小林麻実(こばやし・まみ)
アカデミーヒルズ六本木ライブラリー・アドバイザー。早稲田大学法学部卒業、同大学院国際経営学修士(MBA)課程修了。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。同博士課程中退。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、米国ユナイテッド・テクノロジーズ社において、世界15万人の社員による情報・知識の交換および創出を目指し、ヴァーチャルライブラリーを推進。「ライブラリーとは、個人が持つ情報を他者と効果的に交換し、イノベーションを生む場である」というコンセプトを構築し、2002年に六本木ライブラリー・ディレクターに就任。「組織を離れた個人」のための会員制ライブラリーを創設し、現在は六本木ヒルズ等3ヵ所に約4,000名の会員を抱える。著書『図書館はコミュニティ創出の「場」ー会員制ライブラリーの挑戦』(勉誠出版)、『ワンランク上をめざすビジネスパーソンの独習ガイド』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)他。
堀潤 (ほりじゅん)
ジャーナリスト。1977年生まれ。2001年にNHK入局。「ニュースウオッチ9」リポーターとして主に事件・事故・災害現場の取材を担当。自取材で他局を圧倒し報道局が特ダネに対して出す賞を4年連続5回受賞。10年、経済ニュース番組「Bizスポ」キャスター。12年より、アメリカ・ロサンゼルスに あるUCLAで客員研究員。日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作。13年よりフリーランス。NPO法人「8bitNews」代表。著書に「僕がメディアで伝えたいこと」 (講談社)、「僕らのニュースルーム革命 僕がテレビを変える、僕らがニュースを変える!」(幻冬舎)