卒業後、大学のあったコネティカット州から、'00年にニューヨークに拠点を移し、ショーに出演するようになる。かつてはマイケル・ジャクソンやマドンナのバックダンサーオーディションに参加したこともあった。
「マイケルのオーディションでは、審査員の前に立っただけで、踊ることなく落とされました。ボクの160cmの身長や痩せた体つき、つまり見た目の段階で受からなかった。それで自分の目指すべきステージは違うな、と痛感しました」
そこで蛯名が編み出したパフォーマンスは、ダンスやパントマイム、マジック、マーシャルアーツ(格闘技)を混合したまったくオリジナルのもの。彼はダンススクールで講師をして収入を得ながら、ダンスのコンテストがあると聞けば参加して賞金をさらっていく。
「出場したらたまたま全部勝っちゃっただけ。けっして生活は楽ではなかったですよ。ダンススクールの講師代があったのでなんとかなりましたけど、パフォーマンスだけで食べていけるようになったのはほんとに最近です」
『AGT』の決勝では、頭が身体から落ちるパフォーマンスで視聴者の心をつかみ、ロボットダンスや映画『マトリックス』を彷彿とさせる動きでダメ押しした。
「首が落ちるパフォーマンスは、萩本欽一さんが出演されている『全日本仮装大賞』で観たアイデアに着想を得て、生みだしたマジックですね。もう10年以上やっていますが、全世界のどこに行っても笑ってもらえます。僕のパフォーマンスは構成する全部が〝なんちゃって〟。すべての芸が見よう見マネのB級なんですけど、それをミックスさせ、音楽や映像などの演出を加えて、エンターテインメントとして総合的に魅せていく。ですから、素人の方でもわかりやすくて楽しんでもらえると思います」
蛯名はあのマドンナにも高く評価されており、数年前には彼女が息子や娘の誕生日に開くパーティに呼ばれたほどだ。1度目はチェコのプラハで、2度目はニューヨークの彼女の自宅で、蛯名はパフォーマンスを披露した。さらにマドンナには、『AGT』出場に必要なグリーンカード(米国永住権)取得の際の推薦状を書いてもらったという。
「『AGT』は、自分のプロモーションになるかなと思って参加したんです。視聴者の投票で評価されるこの番組で、優勝できたことは嬉しかったですね。自分のこれまでの活動は間違ってなかった」
'06年に結婚し、娘の小学校入学を機に日本にも自宅を構えたが、現在は同番組の全米ツアーにメインキャストとして出演中。まだ凱旋帰国はできていない。インタビュー中も彼の携帯電話は仕事の依頼でひっきりなしに鳴り続けた。
「今後は日本やアメリカだけでなく、ヨーロッパ、南アメリカでワンマンショーをやりたいですね。夢は東京五輪の開会式の演出。その仕事が決まった段階の最新技術を駆使して、世界を驚かせたい」
「フライデー」2013年11月22日号より