邦丸: (---略---)佐藤さんがいろいろなメディアに寄稿されたものから、次は北朝鮮について伺いましょう。北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国の張成沢(チャン・ソンテク)前国防委員会副委員長(67歳)が処刑された。現在の金正恩(キム・ジョンウン)最高指導者の親戚だし、側近中の側近だったわけですが。
佐藤: 義理の叔父さんですよね。直前に離婚したということで、無関係だということになっていますけど。
邦丸: 張成沢さんが処刑ということにはならないんじゃないかということも言われていたなかで、拷問を受けたような映像も出たし、処刑されたということで、今の北朝鮮を佐藤さんはどう見ていますか。
佐藤: 私は、今、北朝鮮は大きな転換点であると見ています。1930年代のソ連とよく似ているんです。
邦丸: 戦前ですね。
佐藤: はい。スターリンという独裁者がいましたよね。
邦丸: はい。
佐藤: あのスターリンが独裁政治をしていく過程によく似ているんです。スターリンは「マルクス・レーニン主義」ということを言い出したんですよ。それまでレーニンは「私の考え方はマルクスと一緒ですから、マルクス主義です」と言っていた。しかし、スターリンは「違う。マルクス・レーニン主義だ。レーニンは謙虚な人だから、レーニン主義と言わなかったんだ」という形で、スターリンが「レーニン主義」を言い出して、その「レーニン主義」というのは「スターリン主義」なんですよね。
邦丸: ふむ。
佐藤: 北朝鮮でそれと同じことが起きているんです。
邦丸: 「マルクス主義」「マルクス経済」とかありますよね。もともと「マルクス主義」に基づいて国をつくっていこうとしたのがレーニンさんだったわけですよね。
佐藤: はい。
邦丸: それをスターリンさんが、「いやいや、レーニンさんがすばらしい」と言って、「マルクス・レーニン主義」というひとつの言葉にしちゃったんだけど、実質的にはそれは「スターリン主義」だということですね。
佐藤: はい。北朝鮮で今、「金日成・金正日主義」という新しい主義が起きているんですね。これはつい最近、知ったんですよ。
邦丸: ほお。
佐藤: 実は11月に、私の友人でもあり、やはり東京地検特捜部にお世話になった石川知裕さん、元小沢一郎さんの秘書だった人が・・・・・・。
邦丸: 民主党の議員だった方。
佐藤: はい。彼が北朝鮮に行ったんですよ。彼がお土産に、『金正日最後の勝利のために』という演説集を持ってきてくれたんです。今、北朝鮮は経済制裁がありますから、通常のルートでは本が入ってこないんですよ。向こうに渡った人が手持ちで持ってくるしかないんですね。それを見て驚いた。金正恩の演説のなかで、「お父さんの金正日は非常に謙虚な人だった。『私の考えは金日成主席と同じだから、金日成主義だ。金正日主義ではない。私の名前をつけてはいけない』と名前を付けることを厳しく禁止したんだけれど、私は敢えて金日成・金正日主義と呼びたい。今後は金日成・金正日主義だ」と言っているんです。これはスターリンが言ったことと一緒なんです。
邦丸: はいはい。
佐藤: そのときにスターリンは、自分の側近のナンバー2のブハーリンという人を処刑しているんです。
邦丸・伊藤: へえ~~~。
佐藤: ブハーリンは公開裁判にかけられて、「実は私はイギリスのスパイでした。本当はソ連を壊そうと、悪事を企んでいたんです」と自白するわけです。これは自白強要剤を飲まされたのか、それとも洗脳なのかと、世界で映像で映し出して、すごい問題になったんです。そして銃殺された。張成沢の処刑は、これとすごく似ていますね。ですから、「私」の新しい思想に従うメンバーをつくるということなんです。北朝鮮に革命学院というのがあるんですけれど、その演説集のなかに、革命学院への手紙があるんです。「血は遺伝するが、思想は遺伝しません。革命家の子供であっても、革命家であるわけではない」と書かれている。
邦丸: 誰が書いた手紙なんですか。
佐藤: 金正恩が、将来のエリートになる学生たちに向けて書いた手紙なんです。
邦丸: 言っていることとやっていることが違いますね。
佐藤: いや、これはどういうことかというと、血筋だけではなくて、プラス「金日成・金正日主義」の思想を共有していないと後継ではない。金正男さんには後継資格がないと言っているんですよ。血がつながっているだけじゃダメだと。ですから、今回の張さんは後ろに中国がいるでしょ。この流れを断ち切るということですよ。北朝鮮の情勢を読むときは、こういう一見何でもないようなフレーズのなかに秘密が隠れているんですよね。