生まれ変わりの魔法とは? 半年前の自分と今の自分はまったくの別人!

~生物学者が語る生物のキホン~
福岡先生は少年時代、昆虫標本を集めていた
生物学者青山学院大学教授
福岡伸一先生

1959年生まれ、東京都出身。京都大学を卒業後、ロックフェラー大学博士研究員や、京都大学助教授を経て、青山学院大学教授。専攻は分子生物学。著書に『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』など。

松尾貴史(以下、松尾) 今夜のゲストをご紹介します。生物学者で青山学院大学教授の福岡伸一さんです。こんばんは。

福岡伸一(以下、福岡)はい、こんばんは。どうぞよろしくお願いします。

松尾 さて、福岡さんが研究なさっているのは、ずばり「生命とはなにか」。もうほんとうに壮大なテーマというか・・・。そもそもなんでこんな難しいテーマに挑もうと、思われたんですか?

福岡 私も最初から、「生命とはなにか」なんていう、大それたことを問い詰めようと思ったわけではないんです。生物学者になる前の私は、虫が大好きな、普通の昆虫少年でした。

松尾 養老孟司さんみたいに?

福岡 ええ。そうですね。小学校の頃には、昆虫図鑑を端から端まで読んで、だいたい日本にいる虫だったら全部いえるぐらいになっていたわけですよ。で、そうなるとコレクターとして標本をつくりたいと思うようになる。

そのためには、きれいなチョウを採らないといけないですよね。ちょっと残酷なんですけど、完全な標本をつくるためには卵から虫を育てるんですよ。イモムシになってサナギになって・・・。

松尾岡村仁美アナウンサー(以下、岡村) ええー!?

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福岡 で、サナギから出てきて、いよいよきれいなチョウになったところを、ピッて。

松尾 三角紙で。

福岡 ええ。展翅(てんし)して、きれいな標本にするんですよ。だから、私のこの指先には、いろいろな痛みが宿っていて、それが今生物学者としての良心になっているわけです。

松尾 そこは哲学ですね(笑)。

福岡 はい(笑)。

生命の真実「動的平衡」

松尾 「どうてきへいこう」って、ふと、どんな競技だろうって思いますが。どういう漢字かというと?

福岡 動的平衡とは、四文字熟語ですね。動的というのは「動く」、つまりダイナミックに絶え間なく動いているということ。平衡というのは「バランスをとる」ことですよね。

だから、絶え間なく動き回りながら、危ういバランスを保っている、そういう状態というのが生命の定義としてもっともふさわしいんじゃないかなと。

松尾 まぁ、やはり生物というのは絶妙なバランスで生きているという状態になっているんでしょうけど。これ、どういうふうに考えればわかりやすいんでしょうね。

福岡 そうですね。20世紀から21世紀にかけて、生物学はものすごく大発展したんですね。たとえば、DNAというものが発見されて、それが二重螺旋構造をしている。そこに生命の設計図が全部書き込まれているということがわかってきたわけです。

で、二重螺旋がなんで二重になっているかというと、たとえば写真でいうとネガフィルムとポジフィルムの関係に近いですね。ネガからポジ、ポジからネガがつくれて複製できる。自分で自分のことが増やせるという仕組みが、DNAのなかにあらかじめ組み込まれていたんです。

だから、20世紀の科学の視点から「生命とはなにか」と問われると、それは「自己複製できる仕組みが生命だ」といった定義が生まれてきたわけですね。

松尾 それはつまり、ほとんどなにも活動していなくても、自己複製ができれば生命と思ってもいいと?

福岡 そうですね。でも、自己複製できるものって、実はたくさんあって。そのへんにあるコピー機だってそうだし、コンピューターウイルスだってそうですよね。

松尾 あぁー、そうですね。

福岡 だから、自己複製できるという視点からのみ生命を見ると、生きているということの大事な側面を見失っちゃうんじゃないかと思うんです。実は私たちが生きているということは自己複製よりも、もっとダイナミックなことが起きていて、それこそが生きていることの本質だと思うんです。

つまり、それはね、いろいろなものが入れ替わっているということなんですよ。

松尾 あの、昔先生にお話をうかがったときに、生命とは川に似ているとおっしゃったんですよね。

福岡 ええ。流れる川ですよね。目の前の川は、いつ見ても同じ川に見えますけど、実はそこに二度と同じ水の流れはないわけです。で、実は私たちの体のなかにも、川が流れているんですよ。

岡村 なるほど。

福岡 それは、目に見えないんですけれども、ものすごい勢いで分子や物質やエネルギーや情報が流れている。

松尾 そうか、情報も川の要素の一つなわけですね。

福岡 そうなんですね。

松尾 じゃあ、目や耳、肌が触れたもの、味わったもの、すべて川の水や魚、藻なんかと同じ要素なわけですね。

福岡 そうなんです。生物というものの時間を一瞬止めてみると、それはたしかに物質の集まりだし、DNAから成り立っている機械のように見えます。

けれども、その一時停止のボタンを解除して動かしてみると、絶え間なく私たちは入れ替わっていて、自分の体は自分のものだと思っているけれど、実は自分のものじゃないんです。

松尾 なにかを保たせるための約束事はあるけど、そのなかのものは全然保たれていないという。

福岡 そうなんですね。だから、生物をモノとしてみると物質の集合だけど、実は生物とは生命という「現象」で、分子レベルで絶え間なく入れ替わっている。その入れ替わり方に、実は生きているということの大事な側面があるわけです。

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