冷蔵庫や洗濯機などの「白物家電」で世界ナンバーワンのシェアを誇り、165の国と地域に製品を送り出している家電メーカー・ハイアール。青島(山東省)の冷蔵庫工場が巨大企業に変貌を遂げた秘訣は、CEO・張瑞敏の将来を見すえて継続的に行う「改革」にあった。
張は社員のあるべき姿を青島の海岸に喩えて、こう語る。
「青島の砂浜に残した足跡は美しくても、波がくれば消えてしまいます。つまり、人は過去ではなく未来を見るしかないのです。部下が『すべて順調です』と報告したら、私は『帰れ』と言います。なぜなら、現状に満足している者は何の課題も見つけられないからです」
1984年に西ドイツから最新の冷蔵庫の製造技術を持ち帰り、青島の冷蔵庫工場の工場長に就任した張にとって、まず手を付けなければならなかった「課題」は従業員たちの意識改革だった。
ある冬の日、初めて訪れた工場で張が目にしたのは信じがたい光景だった。
操業日だというのにガランとした構内。生産ラインは止まっている。工場内では従業員が暖をとるために窓枠を剥がして薪にしている---。
「トイレは屋外に一つしかなく、雨の日は工場内で大小便をする始末でした。私の最初の仕事は、工場内で用便をするな! 材料を盗むな! といった最低限のモラルを求める訓令を出すことでした」(張)