鈍足の4番打者にして、愛すべき酔っぱらい 阪神タイガース「遠井のゴロちゃん(遠井吾郎)」を語ろう

今週のディープ・ピープル
田淵幸一×江夏豊×川藤幸三

週刊現代 プロフィール

川藤 野球の話も、余計な話もなし。どんどん飲めよって。たいていの先輩は胸を張って、ええ格好をして、それをヨイショするのが後輩の務めみたいなものやったけど、遠井さんはそういうことは一切なかった。女の子のいる店に行っても、「おい、カワ。好きな女がおったら勝手に連れて行けよ。ワシのことは放っとけ。帰るときは一緒じゃなくてええぞ」って。

門限なんか関係なし

江夏 遠井さんは、門限なんて関係なかったもんな。でも一つだけ門限に関して、よう覚えている出来事がある。オープン戦で岡山に遠征に行ったときの、あの事件。'71年か。

田淵 村山実さんが監督初年度のときな。例のごとく遠井さんと山尾孝雄さんと俺と藤田平で一緒に飲みに行って門限を破った。まあ遠井さんもいるから、大丈夫だろうと思って宿舎に戻ったら、玄関に荷物が4つ置いてある。そして待ち構えていた村山さんに「おまえら、荷物持って帰れ!」と怒鳴られた。

江夏 オープン戦の成績がふるわなくて村山さんもイライラしていたんだよ。俺は2階から見てたけど、すごい剣幕だった。

田淵 恐ろしくて、平と一緒にすぐ謝ったよ。

 

江夏 ところが遠井さんだけ「はい、はい」と言って、荷物を持って悠々と出て行った。おかしくて笑ってしまった。あれ、かなり酔っぱらってたんやろな。

川藤 その後も遠井さんらしかった。なかなか戻ってこないからマネジャーとかが探しに行ったら、駅前の飲み屋だか深夜喫茶だかにおったんやから。

江夏 大物というか、何も考えてないというか(笑)。その後、どうしたんだっけか。

田淵 本当にそのまま家に帰っちゃった。次の日も試合があったから、記者には「虫歯が悪化して歯医者に行っている」と球団が嘘をついてごまかしたんだよ。

川藤 しかも最後は村山さんのほうが「帰れと言うた、ワシが悪かった」って頭を下げて収まったらしいな。

田淵 それが遠井さんのすごいところ。自由奔放だけど実力で認められていた。

川藤 遠征に行くと、遠井さんが宿舎で食事するなんてことはまずなかった。でも、たまたまホテルで食べていたら監督やら社長やらが「おい、ゴローちゃん、どうしたんや。体の調子でも悪いんか」と気遣われていた。それを見て、ワシもその立場になったら絶対にホテルではメシは食わん、監督や社長に気を遣われる存在になってやろうと思った。