[裏方NAVI]
篠田洋介(横浜F・マリノスフィジカルコーチ)<後編>「チーム力を生んだ“個”のコンディショニング」

スポーツコミュニケーションズ

若手の成長を促した“おっさん”

 今季のF・マリノスを篠田は「大人のチームだった」と語る。中村、中澤佑二、マルキーニョス、ドゥトラといった“オーバー35”の4人を筆頭に、主力には経験豊富なベテランが多かった。彼らは皆、自分には何が必要なのかを理解している。そのため、コーチやトレーナーからの指示待ちではなく、自ら行動を起こす。アドバイスを求めるにしても「こういうことをやりたい」「この部分を高めたい」と、具体的なのだ。そんな彼らの姿を見て刺激を受けた若手の成長もまた、今シーズンの強さのひとつだった。

 F・マリノスの練習は、主に午前10時から始まる。8時半、横浜市内にあるクラブハウスに最も早く姿を現すのは、決まって中澤か31歳の富澤清太郎だ。
「ボンバー(中澤)は、移籍当初から誰よりも早くクラブハウスに来ますね。練習のだいたい1時間半ほど前には来て、準備をするんです。カンペー(富澤)が早く来るようになったのは、昨年の後半くらいからだったと思います。おそらくボンバーらを見て、影響を受けたんでしょうね」

 中村やドゥトラ、マルキーニョスらも、練習前には必ず自分に必要な準備をする。
「俊は8時半から9時くらいには来て、プールで身体をほぐしたりしていますし、ドゥトラにしてもマルキにしても、週末のゲームに合わせて、筋力トレーニングをして、ある程度身体をつくってから練習に入るんです」

 毎日の地道な積み重ねによってコンディションを維持し、試合で高いパフォーマンスを披露するベテランの存在は、若手の成長をも促した。これまで練習前は特に何もしていなかった若手選手がストレッチやジョギングなどをする姿が多く見受けられるようになったのだ。
「ベテランの背中を見て、若手も『自分もやらなくちゃ』と感じた部分はあったと思います。もちろん、最初からどんなトレーニングをやればいいのかなんて、わからないもの。『何をすればいい?』というところから始まるのですが、それでも自主的であることに変わりはありません。大事なのはやらされているのではなく、自分からしようとすること。最初はアドバイスを受けながらでも、積み重ねの中で自分には何が必要かがわかってきますから」

 結果的にF・マリノスは最後の最後に優勝を逃してしまった。川崎フロンターレとの最終戦、ゲームセットのホイッスルが等々力陸上競技場に鳴り響くと、中村はその場で崩れ落ちた。四つん這いになったまま、身動きひとつしない中村の姿は、多くのサポーターの目に焼き付いたことだろう。プロの世界は結果が全てだ。そう考えれば、9年ぶりの優勝まで1勝と迫りながらの最後の連敗は“詰めの甘さ”と言われても仕方がない。

 だが、今シーズンのJリーグを盛り上げた要因のひとつは、“おっさん軍団”の躍進だったこともまた事実だ。さらに言えば、彼らの活躍に刺激を受けた者も少なくはなかったはずだ。同世代には可能性を、そして若手には向上心を与えたのではないか。その“おっさん軍団”を支えてきたひとり、篠田はこう語る。
「今シーズンはチームというよりも、個人個人できちんとコンディショニングができた。それが大きかったのだと思います」
 ひとりひとりがプロであることを自覚し、責任感をもち、自主的に行動してこそ、チームとしての強さが引き出される。“おっさん軍団”の強さはそこにあったのだ。

(おわり)

篠田洋介(しのだ・ようすけ)
1971年9月19日、栃木県生まれ。サッカー部に所属していた高校1年の時にヒザを故障し、手術を受けたことをきっかけにフィジカルに興味をもつ。高校 卒業後、運動生理学やスポーツ心理学を学ぶため、米国に留学。大学時代はサッカーやアメリカンフットボール部に所属した。大学院卒業後は米国の高校や大学 などでコーチを務めた。2002年に東京ヴェルディ1969ユースのフィジカルコーチに就任。03年には横浜F・マリノスユース、04年からはトップチー ムのフィジカルコーチを務める。

(文・写真/斎藤寿子)

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